表題番号:1998A-811 日付:2002/02/25
研究課題20世紀末のドイツ文学にみるシステムとしての文学とジェンダー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 松永 美穂
研究成果概要
 戦後ドイツ文学史の検討と、ドイツ文学史を通してみた場合の、女性と文学の関わり方の変容について、数年前から研究を続けているが、昨年度は特に1970年代に西ドイツでブームを迎えたいわゆる「女性文学」における母親像について、カリン・シュトルックとスヴェンデ・メリアンの作品を中心に検討を進めた。ピルが普及し始め、妊娠・出産に関して女性が自分の意志で選択することが可能になってきた時代でもあったが、カリン・シュトルックは長編小説『母親』(1975)のなかで、自分自身の出生のときの様子を母親から聞いたり、子供時代の記憶を振り返ることで一種の「自分探し」を試みると同時に、「母親になる」ことと社会における「自己実現」の関係をも探ろうとしている。自然な行為であるはずの出産が、大きな病院では工場における製品生産のようにコントロールされて医師の管理下に置かれていることに強く反発しながら、シュトルックは一種のユートピアであり、自然と等置可能な存在としての「グレート・マザー」(必ずしも女性とは限らない)を構想する。一方、スヴェンデ・メリアンはひたすら自己を正当化しようとする「母性」に対して反発し、『母の十字架』(1983)のなかで不妊手術を受ける若い女性を描いている。この両作品は、内容的には全く違っていながら、母性神話の影響に対してそれぞれ過敏な反応を示すという共通した側面もある。
 ここ数年のもう一つのテーマはハンブルク在住の作家多和田葉子の作品における言葉とジェンダーの問題であり、このテーマについては2000年秋の世界ゲルマニスト会議での研究発表を予定している。同じく2000年秋に、ミネルヴァ書房から『初めて学ぶドイツ文学史』を編集・出版する予定だが、そのなかでも通章コラムとして企画されている「書き手としての女性」は、特定課題研究の内容と大きく関わっている。