表題番号:1998A-810
日付:2002/02/25
研究課題1920年代・日本モダニズム文学の研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学部 | 助教授 | 十重田 裕一 |
- 研究成果概要
- 1920年代に活躍した作家たちの活動を、同時代の様々な文化・社会現象と関連に留意しながら検討していくこと。それが、特定課題研究助成費を活用しながらの研究テーマであった。
こうしたテーマのもと、1926(大正15)年に、横光利一川端康成をはじめとする新感覚派の作家たちと映画監督の衣笠貞之助らによって結成された「新感覚派映画聯盟」の検討を中心に行った。1920年代日本の前衛芸術家たちの交流を検討することで、この時代の芸術思潮を照射できると考えたからである。
今回特に注目したのは、これまで本格的検討の行われてこなかった、横光利一と「新感覚派映画聯盟」第一回作品「狂った一頁」との関連である。「狂った一頁」の映画及びシナリオに見られるモチーフや表現の痕跡は、この時期の横光の小説に認められる。そればかりではなく、「新感覚派映画聯盟」という芸術交流の「場」において共有された芸術城の理念は、横光の創作理念、とりわけ、昭和初年代に標榜された「形式主義」と深く関わっている。映像そのものの形式や構成を重視し、映像の純粋性を追求した同時代の前衛映画「狂った一頁」とこの映画を巡る批評に接することで、横光は「形式主義」に確信を持つに至るのである。
以上のことを解明するとともに、映画をめぐる言説と文学をめぐる言説が相互関連しつつ形成されたこの時代の特色についても言及し、本研究テーマが、横光利一という一作家に限定されるものではなく、1920年代の芸術思潮の一局面を形成する、共時的広がりをもつ問題であることの意味づけも行った。