表題番号:1998A-805 日付:2006/11/18
研究課題電子マネーが経済社会に与えるインパクトに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 松本 保美
研究成果概要
 本研究では電子マネーが経済に及ぼす影響を出来るだけ体系的に捉える事を1998年度の目標とした。
 経済取引は、①取引相手に関する情報を入手し、相手と取引交渉を行い、②決済を行う事で完結する。①は取引費用の問題だが、経済の歴史は取引費用削減の歴史であるといっても過言ではない。卸・小売業、銀行や系列・下請けなどが生まれた原因である。つまり、取引費用削減の努力が経済・産業構造を決定している。情報をその内容とする取引費用は、コンピュータ・ネットワークが世界を覆うようになった今日劇的に削減された。当然、従来の経済・産業構造は迅速な対応を余儀なくされている。特に、一国の政治・経済的信頼性にのみ依存している今日の通貨の本質が情報である点は決定的に重要である。衆知のように、取引に実際の通貨を用いる必要性が殆どなくなっている今日、経済取引の電子マネー化は既にほぼ完了し、昨今世界各地で実験的導入が図られている実際の電子マネーは最後の仕上げとして登場して来たとも言える。このような認識に立つと、近い将来次のような問題が生じてくるだろう。
1)経済の不安定化:巨大になった信用創造能力は好況時に経済の急拡大を導くが、一旦躓くと極めて深刻な不況を招く。2)投機的マネーの経済攪乱:巨額な投機的マネーは些細な原因でも瞬時に大量の国際資本移動を引き起こし、深刻な経済的影響をその当該国だけでなく周辺諸国にも及ぼす。3)私的マネーの流通:通貨の価値はその国の政治・経済社会に対する平均的な信頼性を示しているにすぎない。国境を越えて経済が拡大している今日、独自の私的通貨を持つ方が有利と判断する企業が発生し得る。技術的問題はない。4)政府の徴税能力の低下:政府が一私的マネーで完結する取引を完全に捕捉する事は困難なので、当然徴税能力は低下する。一種のアングラ経済の誕生とみなす事も出来るが、過去200年に渡って世界の政治的指導概念であった国民国家の概念が、経済発展の立場から見直しを迫られていると捉えるべきであろう。