表題番号:1998A-688 日付:2002/02/25
研究課題東京語資料としての明治期落語速記の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 日本語研究教育センター 教授 野村 雅昭
研究成果概要
 明治期に刊行された落語速記を東京語資料として評価するために以下の作業を行った。①落語速記雑誌『百花園』より1890年前後の口演を中心に口頭語資料として信頼性の高いものを選定し、そのうち12席につきテキスト化を行った。②テキスト化のすんだものについて、文節単位によるデータベース化を施し、品詞・語種等の属性情報および話者(登場人物)情報を付加した。③1960年代の東京落語の演者から明治期に東京で生育した者を選び、明治期との比較が可能な10席をレコードやテープから文字に起こし、テキスト化した。④これらのデータから東京語的な表現を抽出し、明治末期から大正初期のSPレコード資料および先行研究における東京語的な特徴と比較し、以下のような結論を得た。
 これまで落語速記は速記者による加筆が多く、口頭語資料としての価値が低いという評価があった。確かに、速記には加筆と思われる整った表現があり、口演の正確な文字化ではない。しかし、当時の小説中の会話などと比較すると、より口頭語としての価値は高く、レコードなどの資料に準ずるものとして評価できる。その特徴は、音声における長母音化(アイ→エー、オオ→オー)・母音縮約(テオク→トク)・音節融合(テシマウ→チャウ)などで顕著である。また、語法においては、待遇表現やそれにかかわる指定表現に整然とした体系が見られること、登場人物の発話が当時の社会階層の言語を反映していることなどが指摘できる。
 これらの結果から、明治期落語速記を東京語資料として活用することは有効であり、上記の作業を進めることにより、明治期の東京語の特徴を明らかにすることが可能であることが判明した。また、1960年代に生存した東京落語演者の口演には、明治期東京語の話者としての特徴が十分に残されていることも明らかになった。それらの内容については、論文等で報告する予定である。