表題番号:1998A-685 日付:2002/02/25
研究課題メディア・リテラシーは語学教育にどう役立つか
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 語学教育研究所 教授 塩田 勉
研究成果概要
「メディア・リテラシー」とは、メディアの特性を熟知し、情報の素性を理解し、批判的にメッージを解析できる受信能力とメディアの活用によって主体的なメッセージを表現したり発信する能力の所有やその教育を意味する。
 メディア教育は、日本ではまだ全国的に実践されていないが、ニュージーランドでは70年代初頭、カナダは77年、欧州共同体は、86年から取り組まれてきた。背景には、メディアに溢れる有害な情報が、学校を通過せず、生徒を直撃し、彼らが知識の大半を学校ではなくメディアから得ている現実がある。日本でも家庭におけるパソコン普及率(95年)が17.3%になり、6割以上の児童生徒はテレビを3時間以上見ている。90年代になって、知識のソースとしての教師の存在は相対化され、学習の現場を、集団的対面授業の教室から、パソコンやテレビによって知識を受容する家庭や個室に転換させてしまった。このことは、他の社会背景と複合して学級崩壊を引き起こすに原因の一つとなった。
 このような状況は、語学教育にも有害な影響をおよぼし、公教育における基礎事項の学習は著しく阻害されている。語研で経験するかぎり、中学1年の文法が分かっていない早大生は、約1割近くいると推定される。推薦その他の方法で、そのレベルの学生でも入学が可能だからである。メディア・リテラシーは、メディアが発信すメッージの批判的受け止め方の教育、イギリスに見るようにIT(information technology)の専門家の教育現場への雇用、工房型教室(パソコンが二、三台ある円卓形式の教室)の採用、学生を送り手とした教育の抜本的再編などを求めている。それらは、大学入学以前における基礎教育の崩壊を食い止めることによって語学教育の質的改善におおいに役立つであろう。
 さらに、メッセージの主旨を解釈しその戦略に気付かせる、話の重要度の軽重を測る、文面の解読法を教え、自律的解釈能力のある批判的視聴者を養成する、インターネット、パソコン、手紙、新聞など多様なメディアを教育の対象とする、ジャーナリズムに無関心だった学校教育を現実に向ける転換させる、発信する主体性をもつ送り手、メディアの作り手を育成する、など「メディア・リテラシー」の基本は、即、大学生が求めているニーズに応えるノウハウを提供してくれる点で、大学レベルの語学教育にも有効である。