表題番号:1998A-678 日付:2002/02/25
研究課題走査型プローブ顕微鏡による重イオンビーム照射ポリエチレンの表面形状観察及び局所的物性変化の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学総合研究センター 教授 浜 義昌
研究成果概要
 低密度ポリエチレン(LDPE)、線形低密度ポリエチレン(LLDPE)に重イオンビームを照射したときの表面形状変化及び内部のイオンの飛跡に沿った物性変化を走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)を用いて解析した。また、その機構を明らかにするために他の高分子での効果を解析すると共に、低LET放射線による照射も行った。
 照射は理化学研究所のリングサイクロトロンを用いて、124MeV/nのCイオン、79.25MeV/nのArイオンを空気中、室温で照射した。試料表面には未照射試料には観察できなかったピラミット状の突起(hillock)が現れる。これはLET(限定領域に吸収される単位長さ当たりのエネルギー)の増加するイオン飛跡末端近傍において数が多くなることが認められた。この出現原因は他の高分子や、種々の照射条件での実験から、照射によって試料内部に生成した気体分子(ポリエチレンの場合は主に水素分子)が急激に試料表面から放出される際に形成されるものであることが判明した。また、そのhillockの大きさについても解析した。
 また、試料内部における粘弾性のLET依存性を検討した。深さ方向に対して粘性係数の低下、弾性率の増加が認められた。また、架橋度も増加する。これらの結果は一見お互いに矛盾する傾向であるが、これらの深さ方向への依存性はLETの深さ方向分布とは一致していない。これは重イオン粒子による試料内の反応が非常に不均一に起こっていること、結晶領域の破壊が生じるであろうことを考えると妥当な結果であろう。しかし、これらの原因をさらに詳細に検討するには、より大きな粒子フルエンスで実験を行うことが必要である。