表題番号:1998A-672 日付:2002/02/25
研究課題インドネシアにおける伝統的生業の歴史的変容に関する調査―バリ島の土器作りを中心として―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助手 余語 琢磨
研究成果概要
バリ島カランガスム県で行った1997年度の調査に引き続き、伝統的生業製品としての土器の生産・流通・使用に関する研究を目的として1998年8~9月に行った調査は、東部4県に範囲を拡大した。生産地としては、クルンクン県トジャン村、バンリ県タマンバリ村、ギァニャール県トゥリクッ村・プランサダ村を、また東部4県の市場もその対象とした。
 バリ島東部の土器生産 大型品を除く成形技法は、回転成形とタタキが基盤となる。しかしながら、煮沸用甕の胴部をすべて叩き出すジャシイ村に対し、トジャン村・タマンバリ村は、その半ばまで回転成形すること、糸切り技法の存在などが異なる。大型品の成形技法はジャシイ村とプランサダ村で大きな違いがあり、後者がタタキを用いない点は東部において特異である。また後者の粘土紐輪積み技法には、西部との繋がりがうかがえた。焼成技法は、ジャシイ村の野焼きに対して、他県では昇焔式窯を用いている。器形・器種の点では、儀礼用品のみを生産するトジャン・タマンバリ両村の類似性が際立っている。
 東部の土器流通 最も東部に位置し他県に比して経済力が低いカランガスム県では、旧王国域全般におよぶネットワークが遺存し、材料採掘者・生産者・中央市場商人・他村の小売商の間で、慣習的に利益が細分化されている。東部4県全体を概観すれば、島中央部に近い県ほど近代的商業形態の浸透により旧来の生業ネットワークがゆらいでいる。流通のみならず村ごとの生産においても、儀礼土器への特化、レンガ生産への転業、観光用土器の創出など、旧来からの生業がもつ諸要素のなかから「戦術」的に選択され、生産地どうしで無意識的に分業化された、超県域的ネットワークへの変容・再編が強まっている。
 本調査は99年度も継続予定であり、バリ島全域の生産・流通の状況把握と、その多様性を織りなしている文化的・地理的・歴史的諸条件を明らかにすることが課題である。