表題番号:1998A-662 日付:2002/02/25
研究課題自律神経系の指標を用いた情動・ストレスの評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 山崎 勝男
研究成果概要
 自律神経系の反応特異性とは、特定の刺激に対して特定の生理的反応が生じることをいう。第1実験では、情動刺激に関する自律神経系の反応特異性を検出すること、および反応特異性から情動を弁別することを目的とした。第2実験では、第1実験の目的に加え、大脳前頭部位において、正の情動により左半球が賦活し、負の情動により右半球が賦活するという従来の知見に基づき、正・負の情動に対する脳波の偏側性の検出を試みた。情動誘発刺激には10分に編集した映像を用いた。正の情動を誘発するPositive条件、負の情動を誘発するNegative条件、特に情動を誘発しないControl条件の3条件を設定した。生理指標は、眼電図、血圧、心電図、指尖容積脈波、呼吸数、皮膚電位水準を記録し、第2実験ではさらに脳波も記録した。各条件終了後、映像刺激により喚起された情動を評定させた。情動評定より、両実験ともPositive条件では正の情動が、Negative条件では負の情動が強く喚起された。Negative条件では血圧、心拍数の上昇と表面皮膚温の低下が認められた。Positive条件では血圧、心拍数の低下が認められた。Positive条件では正の情動が喚起され、環境情報である映像刺激を取り込みたいという欲求が生じたが、Negative条件では負の情動が喚起され、環境情報を拒絶したいという欲求が生じたと考えられる。心臓血管系の指標が環境の取り込みにより低下し、拒絶により上昇するという「取り込み-拒絶」説 ( Lacey & Lacey、 1978) が確証された。環境の拒絶により末梢血管抵抗は上昇し、血圧が上昇するという従来の知見にも合致する。末梢血管抵抗の増加は、皮膚の微少循環に影響を及ぼし皮膚温低下につながる。本研究では、正・負の情動に対して異なる方向性の反応パタンが認められ、自律神経系の反応特異性が検出された。