表題番号:1998A-655 日付:2002/02/25
研究課題身体観と直接的・間接的「接触」による心理的・身体的影響に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 鈴木 晶夫
研究成果概要
[目的] 本研究では、物を共有するときに「どれだけ許容できるか」について、父親、母親、兄弟、親友、顔見知り、未知の人という人間関係について調査することで、間接的な身体接触の様態を探ることを目的とした。
[方 法]
1)対象者;18歳~30歳の短大生及び大学生。
2)調査票の構成;a)背景情報 、b)共有に対する許容度の調査項目、共有者6種類(父親、母親、兄弟、親友、顔見知り、未知の人)×共有物34種(下着、上着等衣類11種; 歯ブラシ、箸等口にするもの7種; 布団、カミソリ、筆記用具等用具類16種) について共有すると仮定した場合に気にする程度を10段階で評価。 c)清潔志向に対する自己評価。
[結果と考察]
1.衣類、口にするもの、用具別の許容度因子分析結果
 衣類11種類と人間関係6種類についての共有使用許容度についての因子分析の結果、下着・肌着因子、父親のもの因子等10因子を抽出。同様に、口にするもの7種類については、顔見知り・未知の人のもの因子、母親・兄弟のもの因子等の7因子を抽出。用具類16種については、家族の寝具因子、家族・親友のスキンケア用品因子等の8因子を抽出。
2.物を共有する許容度の平均値
 共有許容度が低いものは、下着、肌着、歯ブラシ、カミソリであり、高いものは、上着、手袋、帽子、カバン、筆記用具であった。許容度が低いものは、直接肌に触れるものや顔、足に使用するものであり、これらの部位は接触に対して敏感な部位であると言える。共有許容度が高いものは、直接肌に触れないものや手、頭に使用するものであった。
3.人間関係における許容度の平均値
 家族間で許容度を比較すると、男子では、衣類で母親との共有を嫌悪し、口にするもの、用具類では兄弟との共有を嫌悪するものが多かった。一方、女子では、全てにおいて父親との共有を嫌悪する傾向が高かった。このことから、性別により父親に対する接し方、感じ方の違いが推測される。他人との間では、人間関係が 密になるほど共有を許容する傾向が高かった。
4.清潔志向と拒絶度の関係
 清潔感の高い人では、他人との共有を嫌悪するという傾向が高かった。
 現在、親子関係の危機、価値観や相互理解のズレ、親子の対話断絶、父親不在等という様々な視点から問題が取り上げられている。本研究の結果からでも、父親のものがそれぞれの場合で独立した因子として抽出されたことや父親のものとの共有を嫌悪するという傾向などから父親の家族間での扱われ方が問題となろう。また、方法論的にも、このように媒介物を通した間接的身体接触や共有という視点からでも、親子関係、家族関係だけでなく、人間関係の取り方を推測できる可能性が示された。