表題番号:1998A-643 日付:2002/02/25
研究課題王政復古期ロンドンの都市財政に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 中野 忠
研究成果概要
 本研究は、17世紀ロンドン市の財政に関するより包括的な研究の一環として、王政復古期に前後する時期の現金勘定報告書(Cash Account)と呼ばれる未刊行一次資料の解読と分析を中心に進めてきた。成果は以下の通りである。
(1) Cash Accountは膨大な量の記録であり、わが国ではほとんど知られていない。きわめて貴重な情報を含むこの資料をわが国に紹介することは大きな意義があると考え、一部を転写し、その要点を整理して、『紀要』に紹介した。
(2) Cash Accountは、当時の会計簿でも一般的であった「責任賦課・責任解除」の方式で書かれており、収入役にとっても年々の責任額を明らかにするためのものであって、都市の財政状態そのものを記録することを目的とするものではなかった。しかし補足的資料を用いれば、財政の概要を知ることができる。
(3) 1653年の責任賦課額はおよそ4.8万ポンド、責任解除額は5.4万ポンドであったが、1670年にはそれぞれ10.6万ポンド、10.3万ポンドとほぼ倍増し、ロンドン市の財政の規模が大幅な拡大傾向にあったことがわかる。しかし賦課額の増加はもっぱら、市の管理する孤児財産や借入金の増額によるものだった。解除額の増加も借入元本や利子の返済額の増加によるところが大きい。
(4) 1660年代前半には改良の兆しの見えた財政が急速に悪化していく直接のきっかけとなったのは、1666年の大火である。それ以前にはせいぜい3000ポンドであった臨時事業支出が1.5万ポンドにも達するようになったことが、それを端的に物語っている。
(5) Cash Accounts以外の史料の分析、史料のデータ・ベース化等の作業も引き続き行っているが、その成果は順次公表していく予定である。
(6) なお、財政状況は当時のロンドン市が直面していた社会・経済状況のなかで評価されねばならない。そのために王政復古期のロンドンに関する研究サーヴェイし、論文として刊行した。