表題番号:1998A-642 日付:2002/02/25
研究課題現代ロシアの生活水準の推計
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 辻 義昌
研究成果概要
 当初の研究目的は、ロシア経済分析において企業及び個人の所得が脱税および横領目的で著しく不透明になっているから、比較的信頼できるデータからそれらを推計することを主題としており、実際にデータが確保でき、また実地でそれらを検証できるという条件下で「モスクワ市民の所得と消費支出の推移」に絞り込むことにしていた。
 昨年度の研究において達成された大きな前進は、モスク大学経済学部に交換研究員として派遣され、モスクワにある生活水準と労働報酬に関わる研究機関と協力関係を樹立し、ロシアの研究機関によって行われている各種のfield workの成果および研究成果の現段階での水準を漏れなく取得できたことである。
 具体的に言えば、統計の一次資料の提供者として1)モスクワ市統計局生活水準調査課2)労働省付属生活水準研究所3)人材派遣会社BLM-Consortを確保できた。また、モスクワ以外ではペテルブルグの市統計局集計課の協力も得、データのすそのを広げることができた。
 これらの資料をから見て取ることで、従来のロシア連邦国家統計局の「全国社会・経済状況」という全国レベルの資料では窺い知ることの出来ないことが多々発見された。その内とくに重要な項目は
1. 市民は平均して30%程度正規の勤務先以外から所得を得ている。
2. 最も裕福な10%及び20%の人々の所得の伸びが著しい。
3. 1998年8月の経済危機以降、最も貧しい40%の人々の暮らしぶりはさして変化しなかったが、中間層である上位20percentileから40percentileの人々の購買力及び消費支出が激減した。
4. 経済危機は1998年1月には下げどまり、予想された大量失業も生まれず、中間層の生活水準の相対的後退をもたらしたにとどまった。
5. 経済的に最も貧しい階層も含め、極小所得水準での生活維持機構がそれなりに有効に働いているので、大量餓死が生ずる危険性はない。ただし、そうしたsafety netから外れた人々に対する個別的救済が今後の課題である。