表題番号:1998A-627 日付:2002/02/25
研究課題多次元プロトン・トンネリングのメカニズムに関する理論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 中井 浩巳
研究成果概要
本研究では、多自由度のプロトン・トンネリングが関係する系に対して、理論的なアプローチにより、そのメカニズムの解明を行った。具体的には、(1)置換トルエンにおける励起状態のメチル基回転障壁、(2)マロンアルデヒドにおけるプロトン・トンネリング分裂、について研究を行った。(1)では、基底(S0)および励起(S1)状態にある置換トルエンのメチル基分子内回転に対するポテンシャルカーブを分子軌道(MO)計算により求め、実験的に観測されているようなS0→S1励起に伴う回転障壁の劇的な変化を理論的に再現した。計算結果の解析より、この劇的な変化はLUMOにおける新しいタイプの超共役が原因であることが示された。このメカニズムによると、これまで明らかにされなかった置換基の位置や種類による回転障壁の変化も矛盾なく説明できることもわかった。(2)では、多自由度のプロトン・トンネリングを取り扱えるようにするために、従来のMO法に替わるNO+MO法を提案し、その理論に基づいた計算プログラムの開発を行った。本研究では、このNO+MO法を適用することにより、マロンアルデヒドのトンネリング分裂幅を理論的に予測することに成功した。特に、重水素置換することで分裂幅が1オーダー減少することが報告されているが、理論的にもこのことが再現された。また、より多くの分子をこのNO+MO法で取り扱えるように、原子核の波動関数(NO)を記述するための基底関数の開発も同時に行った。