表題番号:1998A-620 日付:2002/02/25
研究課題生合成類似ルートによる抗腫瘍性テルペノイド、タキソールの合成研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 中田 雅久
研究成果概要
 入手容易な出発原料から Sharpless の不斉エポキシ化反応、二酸化セレンによる位置選択的アリル位酸化を利用し、高収率で光学活性エポキシアリルトリメチルシランを合成した。その立体選択的閉環反応を鍵反応とし、引き続き二酸化セレンによる生成物の立体選択的なアリル位の酸化、四酸化オスミウムを利用したエキソメチレンの立体選択的ジオール化を行うことにより光学活性なタキソールC環部分の合成に13 工程、総収率 16 %で成功した。合成した化合物に存在する不斉炭素の絶対配置は、X線結晶構造解析により正しく構築されたことを確認できた。光学活性なタキソールC環部分の合成と並行して、モデル化合物を用いた生合成経路類似の渡環反応による A、B 環構築を計画し、渡環反応のためのモデル化合物を合成する目的で然るべきフラグメントのカップリングを行ったが、種々の条件を検討したにも関わらず、フラグメントのアルケニルブロミドのリチオ化が困難であった。そこで分子内のエーテル結合によるアルケニルリチウムの安定化を期待できる基質を代わりとして用いたところリチオ体は速やかに生成し、反応付加体を立体選択的に与えることを見いだした。優先的に生成したジアステレオマーは、Felkin-Anh モデルにおける考察から所望の立体配置を有すると考えている。この付加体より数工程を経て、合成計画上の重要中間体であるジアルデヒドへの変換に成功した。またそのマクマリーカップリングにより、タキソールA, B環部分に対応する十員環の構築に成功したことも確認した。しかしながら、そのジアルデヒドを合成する際、MPM 基の脱保護、ジオールのジアルデヒドへの酸化が低収率であり、マクマリーカップリングの生成物から先の反応は未検討である。これは、アリルトリメチルシラン部分が容易に脱シリル化し、ジエン体を与えることに起因していることが判明したため、トリメチルシリル基を水素原子で置き換えた基質での検討を含め、改善を行い、今後、渡環反応の検討を行う予定である。