表題番号:1998A-619 日付:2002/02/25
研究課題不安定量子系の時間発展
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 中里 弘道
研究成果概要
 不安定量子系の崩壊における指数関数的振る舞いからのずれを測る実験、あるいは量子論の基礎の吟味をも視野に入れた実験は、近年になって漸く可能になるとともに、今日著しい進展を遂げつつある。これらの実験的状況は理論的興味にも大きく影響を与え、量子ゼノン効果検証実験の理論的解析や陽子崩壊における量子効果の再検討等が始まっている。本研究はこのような流れを踏まえ、不安定系に対する(場の)量子論を再考しその時間発展を詳細に検討するとともに、実験との比較を通して量子論自身を今一度吟味することを最終目的として提案されたが、本年度は、上記の量子ゼノン効果に関して、より現実的な模型に基づく理論解析を行なった。
 量子ゼノン効果の検証実験としては、中性子スピンを使った実験が理論的に提案され、それに基づいて現在実際の実験が進行中であるが、この効果の検証のためには、実験上の様々なロスをも考慮したより現実的な解析が必要である。実験では、有限領域内の磁場との相互作用とそれに引き続くスペクトル分解によってスピンのある一成分の時間発展に注目することになるが、これまでの理論解析では、磁場の境界領域でのロス(中性子の反射)が考えられてこなかった。我々は、この反射の効果を取り入れた模型を提案するとともに、その効果を評価した。模型はこれまでと同様、厳密に解くことが可能であり、反射のようなロスが存在する場合には、どのようなスペクトル分解を行なうかで最終的な結果が全く変わってしまうということが判明した。これは実験を行なう上でロスの抑制が極めて重要であることを物語っている。この成果は間もなく公表の予定である。
 この他、この課題に関連した問題として、不安定量子系の生成機講を理解するための模型の考察、場の量子論の枠内での崩壊過程の取り扱いの試みとして提案されたMaianiらの模型の吟味を行なっている。