表題番号:1998A-602 日付:2002/02/25
研究課題ダイナミック赤外分光法によるポリパラフェニレンビニレン誘導体の光誘起過程の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 古川 行夫
研究成果概要
 有機エレクトロルミネッセンス素子の材料として注目されているポリパラフェニレンビニレン誘導体の一つであるポリ(2,5-ジオクチルオキシパラフェニレンビニレン)(DOO-PPV)に関して、レーザー光を照射したのちサブミリからミリ秒の時間領域で起こる構造変化と動的挙動を、赤外分光法により研究した。DOO-PPVの電子吸収帯内に位置する514.5nmのレーザー光を励起光として使用した。レーザー光強度を正弦変調し、変調された赤外信号の強度と位相遅れを検出する位相・変調法により、78Kで、光誘起赤外吸収スペクトルを測定した。観測された光誘起赤外吸収スペクトルは、化学ドーピングにより生成したポーラロン(スピン1/2,電荷+eまたは-eのキャリヤー)のスペクトルと似ていることから、ポーラロンに帰属され、光照射により電荷分離が起きていることがわかった。位相・変調測定における赤外吸収強度と位相遅れの変調周波数依存性(変調周波数、0.8~20kHz)を測定した。測定結果は、単一指数関数による減衰(1分子過程)では説明できなかった。既に報告されているピコ秒時間領域における結果を考慮して、ポーラロン対(鎖間電荷移動エキシトン)から正と負のポーラロンが分離・生成し、それぞれがDOO-PPVフィルム中を移動したのち再結合して基底状態に戻る(2分子過程)モデルを考えた。このモデルに基づいて速度方程式をたて、数値計算法により速度方程式を積分し、赤外吸収強度と位相遅れを計算した。計算結果は観測結果と良い一致を示した。正と負のポーラロンの再結合速度を求めることができた。位相・変調赤外測定法と数値計算による変調周波数依存性の解析をあわせた方法は、共役高分子の光誘起過程の研究に有用であることを示した。