表題番号:1998A-594 日付:2002/02/25
研究課題イオウを反応中心とするラジカル反応によるメチル基転移反応
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 多田 愈
研究成果概要
 酸塩基触媒作用の例に従えば、ラジカル触媒作用とはラジカル種が基質に配位して基質分子内に不対電子密度を発生し、その反応性を変化させることと定義できる。トリフェニルスズコバロキシムを光分解すると、スズラジカルとコバロキシムラジカルに解裂する。このスズラジカルがアルキルハロゲン化物と反応してアルキルラジカルを発生するが、この時系中にはコバルト(Ⅱ)ラジカルが共存している。アルキルラジカルが分子内にイオウ基を含んでいる場合、これがコバロキシムに配位する結果、(1)コバルト上の不対電子密度がイオウ上に非局在化してイオウ上に不対電子密度を生じ、(2)またイオウ基がビニルスルフィドの場合、不対電子はさらにビニル基上にも分布する。我々は(1)、(2)それぞれについてこれらに対応する反応例を発見して、それらをラジカル触媒作用と名づけた。
 (1) チオエステル類存在下メチルコバロキスムを光分解すると、イオウ上でラジカル置換反応を起こしてメチルスルフィドが生成するが、この反応はコバロキシム不在下では著しい反応性の低下が見られる。
 (2) 6-(ω-ハロゲノアルキルチオ)-ウラシルにトリフェニルスズラジカルを作用させるとアルキルラジカルがオルト置換した生成物とイプソ付加して生成するSmiles転移生成物が得られる。この際、系中にコバロキシムラジカルを共存させるとオルト置換が優先し、コバルト不在下ではSmiles転移が優先的に起こる。
これらの発見はいずれも上に示したラジカル触媒作用の好例である。