表題番号:1998A-591 日付:2002/02/25
研究課題III族窒化物における光励起キャリアの冷却過程に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 宗田 孝之
研究成果概要
 ウルツ鉱構造III族窒化物およびその三元混晶は、赤色から紫外域の発光・受光デバイス材料として、また耐環境性に優れた、あるいは高周波用の電子デバイス材料として注目を集めている。これら材料系は難合成材料として知られていたが、合成技術の進歩により一部発光デバイスは実用化され、電子デバイスも試作され動作確認が行われるまでになってきている。しかし、基本的な物性については未だ明らかになっていない部分も多い。
 この材料系の特徴のひとつは、立方晶の典型的なIII-VおよびII-VI族化合物半導体とは異なり、LOフォノンのエネルギーが室温の温度エネルギーよりも大きい事であり、このため光励起されたキャリアの初期緩和過程(初期冷却過程)がこれまで知られている典型的な立方晶化合物半導体のそれとは異なったものになっている可能性があることである。本研究は、アップ・コンバージョン蛍光寿命測定法を用いて光励起されたキャリアの発光過程を100 fs程度の時間分解能で調べることにより、初期冷却過程に対する知見を得る事を目的に実施された。具体的には、測定法の欠点を補うため、発光効率の良いSi を添加したInGaN三元混晶の多重量子井戸構造の試料を用い、まず、正孔の緩和(冷却)過程を調べた。実験はすべて室温で行った。
 得られた知見は以下のとおりである。時間積算した発光スペクトルはInGaN三元混晶に特有のエネルギー・ギャップ不均一性を反映した2つのピークを示した。いずれのピークも発光の立ちあがりは遅くとも1ps以内であり、発光の減衰は高エネルギー側のピークの方が早いことがわかった。発光の立ちあがり時間が速いのは正孔の緩和(冷却)が速いこととSi添加に起因すると解釈される。このとき正孔の過剰エネルギーは理論計算ではLOフォノンのエネルギーより小さいため、正孔の冷却は添加Siにより供給された冷たい電子あるいは音響フォノンとの散乱が支配しているものと考えられる。これらの散乱確率が大きい理由は正孔の有効質量が大きい事に帰せられる。
 現在、電子の冷却過程と発光の減衰の物理を詳しく調べるため、本研究で使用した測定法以外にポンプ・プローブ法を用いて研究を継続している。