表題番号:1998A-587 日付:2004/03/07
研究課題Pb1-xLax(Zr1-yTiy)O3の反強誘電相における結晶構造と微細組織
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 小山 泰正
研究成果概要
 ペロブスカイト型構造を有するPb(Zr1-xTix)O3は,室温においてx<0.05組成範囲で反強誘電性,x>0.05では強誘電性を示すことが報告されている。このため,x=0.05において反強誘電性と強誘電性との競合が生じ,新たな状態の出現が予想される。そこで,本研究では,この競合によって生じる状態の詳細を明らかにするため,Pb(Zr0.95Ti0.05)O3を取り上げ,室温での結晶構造および微細組織の特徴を透過型電子顕微鏡を用いて調べた。
 室温での電子回折図形中には,q=1/2<110>位置周りに不整合構造の存在を示す超格子反射の分裂が認められた。分裂した超格子反射の消滅則を調べたところ,超格子反射はすべてのq=1/2<110>位置周りに存在することがわかった。この事実は,Vielandらが指摘している,酸素八面体の回転変位であるM3変位だけでは,その消滅則を説明することができない。そこで,q=1/2<110>での既約表現を検討した結果,Pb原子によるM5'変位を考慮することの必要性が明らかとなった。ここで,このM5'変位は<110>方向に沿ったPb原子の反強誘電変位である。
 M3およびM5'変位によって特徴付けられる微細組織の特徴を調べるために,分裂した超格子反射を用いて暗視野像を撮影した。得られた像中には,約8nmの間隔で並ぶ縞状コントラストが観察された。また,縞状コントラスとの先端部はヘアピン状をしており,このコントラストが2π/2の位相すべりを持つディスコメンシュレーションであることを示している。よって,不整合相の微細組織はディスコメンシュレーションの周期的配列からなると結論される。
 ディスコメンシュレーションの解析は,M3およびM5'変位による超格子反射で結像した暗視野像を用いて行った。まず,M3変位の超格子反射による暗視野像から不整合相を特徴づける縞状コントラストは,M3回転変位の回転軸が90°異なる,2つのバリアントからなることが分かった。さらに,M5'変位による反射で結像した像からは,一方のM3ドメインがM5'変位の反位相境界に対応することも示された。結局,反強誘電性と強誘電性との競合によって生じた状態,すなわち,Pb(Zr1-xTix)O3における不整合相でのディスコメンシュレーションは,M3分域とM5'反位相境界から形成されていることがわかった。