表題番号:1998A-586 日付:2004/11/18
研究課題2次元回折格子を用いる波面センサーとその応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 小松 進一
研究成果概要
 天体望遠鏡による画像は、地球大気の屈折率ゆらぎの影響を受けて回折限界の数十倍にも拡がってしまう。このゆらぎによる光波面の乱れを打ち消して回折限界の天体像を得ようとするのが、補償光学である。これを実行するためには、まず波面の乱れ(ランダムな位相分布)を高速で測定することが必要である。
 本研究では、光波の輝度伝搬方程式にしたがって、波面の乱れが伝搬後の光波の強度分布に反映されることに着目し、この原理に基づく2次元回折格子を用いる簡便な波面センサーを構成し、これを用いて実時間波面計測に応用した。
 補償光学において波面の乱れを測定する方法としてはシャック・ハルトマン法が一般的である。これは多くの小さなレンズを並べたレンズアレイに被測定波面を入射する方法で、要素レンズに傾いた平面波が入射した際に焦点位置が傾きに比例して横ずれすることを利用している。したがって各要素レンズの中心位置で波面を離散的にサンプルして傾きを測定することになる。
 本研究の波面センサーは2次元的な回折格子を通過伝搬した光波の強度分布変化を利用するため、シャックハルトマン法と比較し、波面の傾きを測定する点を自由に選べ、必要に応じて測定精度を変えられる特長がある。
 今年度は、まず波面センサーの位相測定精度と空間分解能との関係を明確にし、これにより格子周期や波面の傾きを求める領域の大きさなどのパラメータを最適化する方法を確立した。
 現在までに波面センサーの応答時間は約50msに短縮でき、実際の大気ゆらぎの動的計測に応用し、その時間変動をとらえて時空間相関を求めることに成功している。今後、高速フーリエ変換を専用のDSP演算ボードで行うことにより測定時間をビデオレートにまで短縮し、より高速で簡便な実時間波面計測システムが構築できる見通しを得た。
 補償光学以外の応用として、本方法に基づく波面計測システムで従来の干渉計置き換える可能性も十分考えられる。その場合、干渉によらないため、振動の影響を受けない画期的な波面計測システムを提供するものとなり、その意義は非常に大きい。
 このような例として、顕微鏡に波面センサーを組み込んで無染色の生体組織の位相分布を定量的に可視化する新たな方法も提案した。