表題番号:1998A-580 日付:2002/02/25
研究課題Nelsonの量子力学に基づくトンネル時間-散逸による影響の評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 大場 一郎
研究成果概要
 本研究の主題「トンネル時間の評価」の問題の困難な点の第1は、トンネル現象が古典的禁止領域での純粋な量子効果であって、古典的概念の描像に準拠しながら量子化するという通常の手続きが取れないことである。第2の点は、力学の記述の仕方そのものに起因する問題である。時間変数は力学変数ではなく、ハミルトニアンによって生成される力学量の時間発展を目盛る単なるパラメーターにしか過ぎない。本研究で用いるNelsonの量子力学は従来のコペンハーゲン的解釈を、量子ゆらぎを伴う拡散過程に置き換えた。その確率微分方程式は粒子の一つ一つの軌跡に関する時間発展を与え、その経路のアンサンブルによる物理量の平均値が量子力学的期待値を再現する。このアンサンブルで、実験室で測定されるトンネル時間を評価できる。本研究では、より現実的な状況に対応するために、Nelsonの量子力学によるトンネル時間の評価の枠組みを(1)多チャンネル系に拡張し、(2)散逸系、熱浴と結合する系に拡張することを試みた。
 1. Nelsonの量子力学の多チャンネル系への拡張とそのトンネル時間への効果
 Nelsonの量子力学の構成をさらに精密化し、Langevin方程式のアルゴリズムを開発、シミュレーションを実行し、量子井戸を透過するトンネル時間への影響等を評価した。
 2. Nelsonの量子力学の散逸系、熱浴との結合系への拡張とそのトンネル時間への影響
 量子系に対する熱浴の影響はCaldeira-Leggettによる方法で取り入れることを試みた。また、散逸系についてはohmicな現象論的方程式に従う系の量子化を試み、その量子化の基礎を与えた。さらにその有効作用に基づくNelsonの量子力学を構成し、対応するLangevin方程式を定式化した。