表題番号:1998A-575 日付:2002/02/25
研究課題並行論理プログラミングに基づく広域分散計算パラダイムの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 上田 和紀
研究成果概要
並行論理プログラミング言語は、論理プログラミングパラダイムに情報の流れを制御するための同期機構を導入し、並行処理記述のための言語としたものである。なかでも研究提案者の提案した並行論理プログラミング言語GHC(Guarded Horn Clauses)は、簡潔な通信・同期機構をもちながら、構成が動的に変化する並行プロセス系を自然に記述できる柔軟性も併せもつ。
 これまでの並行論理プログラミングの研究開発は、主として並列計算機上での高速実行を目標としてきた。一方、コンピュータネットワークの急速な普及と共に、広域分散計算環境で稼働する効率的で安全な分散型アプリケーションを容易に構築するための方法論の確立が急務となっている。そこで本研究では、並行論理プログラミングに基づく広域分散計算パラダイムの確立を目標として、下記の検討を行なった。
 宣言型言語とそのプログラミングのもつ簡明さをできるだけ保ちつつ、広域分散計算の記述と非均質計算環境下での実行を可能にする方法の検討。
 広域分散環境で稼働する言語処理系に求められる静的プログラム解析技術の確立、およびプログラム解析技術に基づく安全な広域分散ソフトウェア構築方法論の検討。
 特に本研究では、広域分散実装のための静的解析技法の確立に重点を置き、並行論理プログラムの参照数解析の体系の提案と理論的整備を行なった。参照数解析とは、複数の参照ポインタをもちうるデータ構造と、単一の参照ポインタしかもたないデータ構造とを、静的プログラム解析によって区別するものである。単一参照のデータ構造に対してはコンパイル時ゴミ集め、記憶域の局所的再利用(local reuse)、データ送信のメッセージパッシングへのコンパイルなどが可能となり、広域分散実装が大幅に単純化、効率化される。本研究ではこの参照数解析の理論的枠組を提案し、解析の安全性を証明した。またこれを、KL1言語用静的解析系klint第2版の機能の一つとして実装し、有効性を確認した。
 記号処理言語は動的データ構造の柔軟な作成管理を特徴とするが、分散計算環境における実装は困難とされてきた。これに対して本研究では、記号処理プログラムからも十分な静的解析情報が得られることを示すことができた。簡潔な並行言語を拡張して広域分散計算に適用することによって、単純で検証の容易な広域分散処理記述言語を得ることが期待される。