表題番号:1998A-557 日付:2002/02/25
研究課題オーストラリアの先住民族アボリジニの社会経済的地位と教育期待に関する調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 助教授 前田 耕司
研究成果概要
 本研究ではまず、英国系の労働者階級の移住者によって形成されてきたオーストラリアにおいて、現在、非ローマン体使用語圏の少数民族やアボリジニを下層とする民族による階層構造が形成されており、旧宗主国とは異なる形での階層の再生産がなされていることの実態について検証した。とくに、先住の少数民族であるアボリジニが最貧困層に位置づけられている実態については、McConnochie, K. の「貧困の循環」(cycle of poverty)説を理論的枠組みに据え、健康・教育・雇用問題の相互関係から構造的に説明する手法を用いて検討を試みた。次に、このような社会経済的に最下層に位置づくアボリジニの親の子どもに対する教育期待(子育て観)の検討を通して、アボリジニとアングロ系の中間階層との価値志向性における相違について分析を行った。つまり、「人々は階層によって職業上や家庭生活上で異なる生活諸条件を経験し、そこで享受した価値観や信念を子どものしつけに反映する」というアメリカの社会学者Kohn, M. の理論を下敷きにして、子育てをめぐる価値志向性の相違が子どもへの教育期待にどのような影響を与えるのか、検討を試みた。具体的には、Kohnの提唱した自己司令性と同調性の志向性を分析枠組みに、①伝統志向型コミュニティ(traditionally oriented communities)②農村型コミュニティ(rural communities)③都市型コミュニティ(urban communities)④都市分散型(urban dispersed)の各コミュニティに帰属するアボリジニとアングロ系白人を調査対象としてアングロ系白人により近い生活様式をもつアボリジニほど子育てにおいて同調的ではなく自律志向の傾向が見られるのではないかという仮説の検証を試みた。しかしながら本研究は現地調査に際しての分析枠組みの入念な検討およびその調査準備の必要性から単年度での研究の完結は不可能である。本調査の実施ならびに調査結果の分析については、次年度における研究課題として残った。