表題番号:1998A-554 日付:2002/02/25
研究課題イギリス・ロマン主義の歴史的特性と神話創造に関する考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 西山 清
研究成果概要
 1998年度における課題研究は、主に基礎資料の収集と整理に当てられたが、その過程において、いくつか前年度からの継続研究をも発表する機会に恵まれた。まず、ロマン派の神話創造の解読におけるキーワードのひとつを「楽園回復」に求め、詩人たちの多様な自然観のうちにそれぞれの楽園回復への動機付けを求めた。具体的には、14世紀のチョーサーから20世紀のハーディまでをこの観点から概観し、楽園-楽園喪失-楽園回復という図式が、変遷する自然観の中でとりわけロマン派の詩人たちにどのように位置付けられていたのかに焦点をあてて作品を再読する作業をおこなった。
 また、19世紀ロマン派に顕著であった汎神論的な自然観は自然に対する自我の投影にほかならないが、筆者はまずワーズワスをはじめとするロマン派詩人が具体的にそのような自然観をどのようにしてもちえたのかを、ワーズワスの自伝的長編詩『序曲』と『逍遥』とを、背景にある社会的変動と重ね合わせて解読する作業にとりかかった。この作業は非常に時間的拘束が要求されたため、予定していた渡英計画を断念せざるをえず、渡航費用は資料購入に転用された。この研究の成果の一部は6月に中野区もみじ山文化センターにおける講演で発表されたが、今年度はさらに時代的考証を重ねて紀要等にその成果を発表する予定である。
 なお、数年来の継続課題であり、ロマン派の神話創造の背景にある聖書神話に関する考察は、11月に『聖書神話の解読』として中央公論社より出版された。