表題番号:1998A-540 日付:2002/02/25
研究課題天台密教の思想展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 大久保 良峻
研究成果概要
天台密教、すなわち台密を東密に伍するまでに発展させたのは円仁である。九年間の入唐求法は、空海以後に新たに中国で展開した密教を比叡山にもたらすことになった。そして、円仁に次いで、円珍が入唐し更に台密は充実していく。その二人の後、安然が台密を大成するのである。この期間、東密はふるわず、日本密教の命脈を保ったのは台密である。
 台密には天台教学と密教の一致を説くという共通の特色があり、そこに空海を祖とする密教との明瞭な差異が見出される。その違いこそが、台東両密の論諍として後々まで継承され、互いの刺激になっていくのであるが、その先鋒となったのが円珍と安然である。そして、このように大枠で台東両密を抱えた上で、考究しなければならないのが、それぞれの学匠の教説の個性である。特に、台密では円仁の教義が安然の教学の基盤となっているのであるが、そこにそれぞれの独自性が見られないわけではない。しかも、円珍はそれらとは観点を異にした主張をしばしばしている。したがって、その三師の教説の特色を検討することは大きな課題となるのであり、そういった研究も徐々に進めてきた。
 それでは、台密を成立しめた三師の教義は、後の学匠にいかに受容されたのであろうか。安然以降は事相(実践)を中心にした諸流分派の時代になっていくだけでなく、日本天台の本流が密教ではなくなっていくということもあり、この問題を探るための文献は豊富であるとは言い難い。そのような状況下で、今回の仁空の教説、特に『義釈捜決抄』に注目することにした。仁空の密教義について、円仁・円珍・安然を祖述するばかりで、独自性がないようなことも言われるが、上述の如く、三師の主張は相当に異なるのであり、それらを統一的見地から自説に合致させるべく解釈している仁空の説は個性に溢れていると言える。以上のような点に注目して、研究成果を作成し公表することにしたい。