表題番号:1998A-533 日付:2002/02/25
研究課題「Voicing contrast」に関する日英語比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 平埜 雅久
研究成果概要
今回の研究調査では、voicing contrastの研究対象を閉鎖音から摩擦音/破擦音に移し、閉鎖音以外のobstruentsにおいて、voicing contrastが、音響音声学的に、聴覚音声学的にどのような体系を有するのか、日本語と英語を比較対照しながら、その解明が試みられた。
 分析対象とした発話は、同一母音の中に当該子音を挿入するといった、オーソドックスな無意味語が使われた。/asa/、/aza/、/acha/、/asha/の4つがその発話である。これら4つの無意味話を、日本語話者、英語話者、各2名ずつに、それぞれ10回ずつ発話してもらい、その音響分析を試みた。分析の結果、摩擦音も破擦音も、閉鎖音とほぼ同様の結果となった。さらに、日本語と英語の比較では、両音とも、音響分析に関する限り大差はなかった。音響分析の結果は以下の通りである。
 1.摩擦音も破擦音も、共に、有声子音の直前に出現する母音の長さは、無声子音の直前に比べて長かった。
 2.子音の長音に関しては、摩擦音も、破擦音も子音部分の長さ(閉鎖音のclosure durationに匹敵する部分)は、無声音の方が長かった。
 3.摩擦音も破擦音も、スペクトル分析上で、有声音にvoice barが観察された。
 4.無声摩擦音では、無声閉鎖音や無声破擦音の「VOT」に匹敵する、「後続母音の立ち上がりまでの時間的長さ」が観察されたが、現れ方に一貫性が欠けていた。
 5.先行母音から子音に移行する際に、母音のフォルマントパターンに有声音、無声音で違いがあった。有声音の直前では、母音のフォルマントパターンの移行が緩やかであった。
 聴覚実験では、上記の音響学上のパラメータをもとに聴覚実験用の音を作成し知覚実験が試みられる。ただし、現時点では、知覚実験が完了していないため、実験結果に関しては、追って発表される研究論文で紹介されよう。