表題番号:1998A-513 日付:2002/02/25
研究課題経済法の基礎理論的研究Ⅱ
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 土田 和博
研究成果概要
 本研究は、J.Rawls『正義論』で示された正義の諸原理を国際関係にも適用可能なように修正するためにC.Beitzの『政治理論と国際関係』などを検討した。
 それによれば、まず原初状態の参加者は国民社会からに限らず国際社会からということになる。そこは無知のヴェールに包まれているから、天然資源の何がどこにどれだけ埋蔵されているかは知らないが、不均等な分布それ自体は知っていると考えられること、あるいは原初状態の参加者が生まれつく社会が、高度に工業化され情報化された裕福な社会なのか、それとも単一農産物の輸出に自己と家族の命運をかけざるをえないような発展途上の社会なのかを知らないことなどから、最もましな最悪を選択するという保守的なマキシミンルールに従って、格差原理を含む正義の二原理に合意することになる。ここにおいて正義の二原理は、国際上の分配的正義を含む地球的原理となるわけである。
 Beitzの理論の法制度論的含意についてみると、必ずしも具体的に語られているわけではないが、次のような国際的正義の二原理の適用関係が考えられよう。まず言論集会の自由や身体の自由、個人財産を所有する権利など、正義の第一原理上の権利が国際関係においても最優先され、ついで第二原理の機会の公正な平等の原則によって、人が同じ才能と能力と意欲をもつ限り、カースト制などの社会環境の影響をうけることなく同じ社会的経済的機会を持つことを確保し、さらに国際的格差原理によって天然資源の不均等な分布や人の生来の才能の違いなど自然的要因が人間の社会経済的状態に及ぼす影響を除去しようとするものと考えられる。天然資源や人の才能はまさに人類共有の資産であって、それを分かち合うことを含んだ格差原理に国際的原初状態の参加者は合意していると考えられるからである。