表題番号:1998A-505 日付:2002/02/25
研究課題 多国籍企業の投資と法人税システムのあり方に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 馬場 義久
研究成果概要
1.多国籍企業の資本コストと法人税制・国際的二重課税緩和制度との関連を分析した、これまでの諸業績をサーベイした。このサーベイによって得た主な知見は次のとおりである。(1)多国籍企業の発展段階-創出・成熟-を区別して、資本コストと税制との関連を分析すべきこと。子会社の発展段階によって最適直接投資政策が異なるからである。(2)たとえば、移転価格税制の活用など多国籍企業の節税・脱税行動―を明示して、それをモデルに組み込んで資本コストを導出すべきこと―この主の作業はこれまでのところ十分にはなされていない。今後、米国へ進出している日本企業海外子会社の発展段階を区別しつつ、その節税・脱税行動に注目して、わが国の多国籍企業の行動と税制の関連を分析する予定である。
 2.本研究の予備的作業として、現行日本の法人税制-個人所得税制システムに内在する所得税体系上の問題点を明確にし、論文および著書として発表した。(1)そこでは、企業が発行する金融資産の生み出す所得に対する課税の方法として、包括的事業所得税法の採用を主張した。この結論は、課税の公平や企業の資金調達における中立性のみならず、本研究が重視している資本輸出の中立性という開放経済下の基準をも視野に入れてのものである。ただ、ACEシステムなど支出税から導かれる法人税システムと包括的事業所得税法の比較分析が今後の課題として残されている。(2)わが国が先進5カ国の中で最も利子に比べて配当を重課していることを指摘し、法人税制改革は税率引き下げのみならず、課税ベース別の負担格差をも考慮すべきことを主張した。今後、このような法人税システムがわが国の多国籍企業の行動に与えている影響について分析を試みる予定である。