表題番号:1998A-195 日付:2002/02/25
研究課題エレクトロニクス業界における先発優位と後発優位
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) アジア太平洋研究センター 教授 山田 英夫
研究成果概要
 規格競争においては、「ネットワーク外部性」がはたらくため、後発規格が先発規格を逆転することは難しいといわれてきた(柴田 1993、山田 1993等)。しかし現実のエレクトロニクス業界を見ると、後発規格が先発規格を逆転しているケースが少なくない。
 またマーケティングの分野を中心に、先発優位の研究と後発優位の研究は別個に行われてきたが(Liberman & Montgomery 1988、Schnaars 1994等)、両者の条件づけを行う研究は存在しなかった。
 そこで本研究では、エレクトロニクス業界を対象に、後発逆転の要因を明らかにし、先発優位と後発優位の条件づけを行うことを目的とした。研究の方法として、(1)先発規格が後発規格を振り切り、デファクト・スタンダードを獲得した事例(カメラ一体型VTR、デジタルカメラ、PDA、MPU、グループウェア、キーボード)、(2)後発規格が先発規格を逆転した事例(家庭用VTR、TVゲーム、パソコン(世界)、パソコンOS、ワークステーション、FAX、パソコン通信)、(3)後発規格が先発規格に急追している事例(パソコン(日本)、日本語ワープロソフト、ブラウザ)の3グループごとに事例研究を行い、各々の要因を分析した。なお逆転の基準としては、マーケット・シェアを採用した。
 事例研究の結果、以下の仮説が導かれた。
(1) 非連続技術革新があると後発優位、ないと先発優位
(2) 経験曲線の傾きが急な場合は先発優位、緩やかな場合は後発優位
(3) 知的財産権の保護がある場合は先発優位、ない場合は後発優位
(4) デファクトのまま市場が推移する場合は先発優位、後に公的標準化がなされる場合 は後発優位
(5) 競争が同じ土俵で続く場合は先発優位、土俵が代わる場合には後発優位
(6) 顧客ニーズが把握しにくい場合は先発優位、把握しやすい場合は後発優位
(7) 採用者カテゴリーごとのニーズの差が小さい場合は先発優位、大きい場合は後発優位
(8) アプリケーションの変化が小さい場合は先発優位、大きい場合は後発優位
(9) スイッチング・コストが高い場合は先発優位、低い場合は後発優位
 本研究では最後に、先発・後発の各々に、その優位な条件を維持・強化する戦略を呈示した。先発規格に対しては、以下の6つの戦略を提言した。
(1) 極めて速いスピードで技術改良を続けること
(2) コア・コンピタンスとなる部品等の累積生産量を早く増やすこと
(3) 公的標準化の動きを阻止すること
(4) 製品の定性的な部分に付加価値をつけ、後発者の開発目標を多元化すること
(5) ユーザーのスイッチング・コストを高めること
(6) 市場の生の声に基づいた改良製品を出すこと
 一方、後発規格に対しては、以下の4つの戦略を提言した。
(1) クローズドな先発規格に対するオープン政策
(2) バンドリング政策により競争の土俵を変更
(3) 先発規格と異なる市場・用途を開発する
(4) 先発規格と異なる公的標準化を進める