表題番号:1998A-178 日付:2004/11/05
研究課題熱場の理論によるボース・アインシュタイン凝縮系の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 山中 由也
研究成果概要
 1995年に始まるアルカリ原子のボース・アインシュタイン凝縮状態の実験は、近年の物理学最大の話題である。温度数百nKオーダーの純粋な凝縮系を実験室で自由に細工できることは、微視的世界の理論研究に重要な意義を有する。現在この凝縮状態の実験との比較は、Gross-Pitaevskii方程式(平均場近似)というc-数理論が主流で行われている。大雑把な性質は矛盾していないが、今後予想される詳細な実験では、とりわけ凝縮系が力学的に変化する様子を測定できるようになれば、より精密な量子効果を充分取り入れた理論による解析が必要である。
 本研究は今後の精密実験に備えて、c-数理論ではなく、可能な限り量子効果を取り込んだ場の理論の立場から、問題の定式化を始めた。問題は、調和振動ポテンシャルが外力として存在する、自己相互作用するボース場(アルカリ原子を記述する)の系である。自己相互作用の結合定数gは小さいとは言え、凝縮生成には無視できない。今回は、粒子の総数Nが充分大きいとして、gNの項のみを残し、それ以上のg及びNの高次項を無視する近似で、Bogoliubov変換とコヒーレント変換を組み合わせて、ハミルトニアンを対角化できることを示した。その結果、例えば粒子分布関数が具体的に計算され、基底状態に関しても、荒い近似で通常仮定されるガウス型分布から定量的にかなりずれる(特に中心付近で大きくくぼむ)ことが明らかになった。この成果は、"5th International Workshop on Thermal Field Theories and Their Applications"(Regensburg August 1998)で報告した。
 今後、熱的自由度を含むよう、上の定式化をThermo Field Dynamics という熱場の理論の枠組に乗せ、アルカリ原子のボース・アインシュタイン凝縮の熱的非平衡系研究に発展させる予定である。