表題番号:1998A-155 日付:2002/02/25
研究課題現代ラテンアメリカの政治体制と女性―キューバを中心とする社会主義体制下のジェンダーと階級―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 畑 惠子
研究成果概要
 この研究の目的は、70年代半ば以降のキューバを中心に、あらゆる問題の解決が階級闘争に収斂される社会主義イデオロギーにおけるジェンダーの位置付けと、 政治的制度化や経済政策の変化が女性に及ぼした影響を明らかにすることにある。70年代半ばというのは、政府の政策が公的領域における平等(生産労働への参加と政治参加)から私的領域(家庭・家族)での平等へと拡大された時期であると同時に、ラテンアメリカ主要国ではフェミニズム運動や民衆女性運動の台頭をみた時期でもある。しかし、キューバでは外部から思想的影響を受けることなく、女性たちの下からの自発的働きかけもないまま、カストロら指導層のアンビヴァレントな女性観や経済情勢に左右される女性政策が、キューバ女性連盟(FMC)を通してトップダウンで実施されてきた。キューバでは医療・教育、家事・育児の社会化など、さまざまなサーヴィスを国家が保障し、女性の生産労働への参加を促進してきた。しかし参加率は他のラテンアメリカ諸国と比べてとりわけ高いわけではない。加えて、70年代後半からの生産性・効率性重視政策、80年代後半の矯正政策(道徳的・精神的刺激重視、自主性の期待)、さらにソ連・東欧社会主義圏崩壊による90年代の極度の経済危機は、女性に労働強化を強いたり、女性を生産から再生産の場へと追い戻すなど、女性の生活を大きく左右してきた。政治参加についても、人民権議会代表は全国レベルよりも市町村レベルでの女性の選出率が低い。また家庭では、1975年家族法に描かれた理想とはかけ離れた問題、例えば10代の出産、中絶、シングルマザー、離婚の増加などが深刻化している。このような現象は公的領域でも私的領域でも伝統的性別役割分業意識が再生産され続け、国家主導の女性問題の解決には偏りと限界があることを示唆している。