表題番号:1998A-149 日付:2004/03/09
研究課題企業組織内における配置転換の役割に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 井上 正
研究成果概要
 日本企業における、組織従業員は「幅広い専門性」をもつ人材として、組織内で教育訓練されるとしばしば言われる。それは、一つには解雇を伴わない雇用調整に役立つと言われ、また従業員の適正発見、さらに管理職養成という面からも意味があるといわれてきている。しかしながら、一方ではOJTを通じた企業特殊人的技能の育成を犠牲にするという一面を持つと考えられる。
 ところで、日本の企業組織には「配置転換」と称する労務管理制度がある。この制度が存在する根拠は、一つには従業員に様々な職場でそれぞれ異なる職場訓練を課すことで、組織を全体としてみる目を養成し、長期的な意味での調整コストを節約することにあると考えられる。さらに、未成熟な外部労働市場に由来する組織構成員の企業内固定化を企業内労働移動で肩代わりすることで、人事の停滞からくる組織構成員のモラールの低下を予防することと説明されている。
 本研究では、特に配置転換の持つ「人事の停滞及びモラールの低下」を防止する機能と、配置転換に伴う「企業特殊人的技能の活用機会の喪失」という機能の関係を検証した。
その結果、明らかになったことは、配置転換は企業特殊人的技能の活用を犠牲にするにもかかわらず、最適インセンティブになりうるということである。配置転換は、組織従業員が彼らの仕事の生産性を偽るインセンティブを取り除き、それゆえ管理者が組織従業員から効率的な努力水準引き出すための出費を抑えることを可能にするのである。すなわち、配置転換は組織従業員によるラチェット効果を避けることに役立つ場合があることが明らかになった。