表題番号:1998A-115 日付:2005/09/09
研究課題ホウ酸類のH-レゾルシノールとの反応の速度論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 石原 浩二
研究成果概要
 クロモトロープ酸やH-レゾルシノールは、ホウ素の比色定量試薬としてフローインジェクション分析で用いられている。三座配位子であるH-レゾルシノールは二座配位子のクロモトロープ酸と異なり、ホウ酸と定量的に反応するため、より優れた定量試薬である。しかし、反応が二座配位子の場合に比べ百倍以上遅いため、試料溶液を加熱しなければならない欠点がある。我々は以前、何故このように反応が遅いのかを明らかにするために速度論的な研究を行った。その結果、反応が遅いのは、平面型の三座配位子であるH-レゾルシノールが、ホウ酸に二座で配位した中間体を生成し、この中間体から三座配位の錯体を生成する過程で四面体配位を強いられるためであるという結論に至った。もしこのメカニズムが正しければ、ホウ酸の濃度を高くすれば速度定数が頭打ちになる傾向を示すはずであるが、0.025Mを越えるような高濃度ではホウ酸の重合反応が起こるため、このことを実験的に確かめることは不可能である。そこで本研究においては、重合の起こり難いホウ酸の一置換体であるボロン酸を用いて、より高濃度で速度論的な研究を行うことにより、表題の反応のメカニズムを検討した。pKa がホウ酸よりも高い n-ブチルボロン酸やメチルボロン酸の反応では、濃度を高くしても速度定数はホウ酸の場合と同様の傾向を示したが、pKa の低いフェニルボロン酸とm-ニトロフェニルボロン酸の反応では、明らかに頭打ちの傾向を示した。また、中間体の安定度はボロン酸の pKa ばかりでなく置換基の嵩高さにも依存するとが分かった。本研究により、二座配位子との反応に比べH-レゾルシノールとの反応が遅いのは、配位子の平面性に原因があり、H-レゾルシノールが二座で配位した中間体から三座で配位した錯体を生成する過程、すなわち、二つ目のキレートの閉環過程が律速であることが実験的に示された。