表題番号:1998A-107 日付:2002/02/25
研究課題戦後日本企業における状態依存的ガバナンスの実態と機能;メイン・バンクの救済は企業の効率改善をもたらしたか?
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 宮島 英昭
研究成果概要
 これまでの研究を通じて戦後日本の企業において銀行(メインバンク)がコーポレート・ガバナンス面で中心的な役割を演じてきたとの見方は広く受け入れられつつある。とくに通常の(arm's lenghな)企業・銀行関係に対してメインバンク関係がユニークな点は、取引先企業が金融危機に陥った際、メインバンクが企業経営に介入し(状態依存的ガバナンス)、しかも自ら負担を負いつつその救済・再建のイニシアチブをとる点にあり、この救済・再建が企業の性急な清算を回避し、企業に固有の熟練を維持して日本の経済成長に貢献したと指摘されてきた。本研究計画は、高度成長期の出発点である1955年から現在(1995年度)までの40年間について、全上場会社を対象としたデータからこうした見方の妥当性を実証的に吟味する点にあった。
本年は、以上の関心から次の2つの課題を検討した。第1は、1)金融危機に陥った企業に対してメインバンクは、本当に自ら損失を負担しながら救済行動をとったのか、2)銀行による企業の救済は、実際に企業のパフォーマンスの改善をもたらしたのか、むしろ救済は経済構造の変化にともなって衰退してゆくべき企業を温存する効果をもっただけではないのか(過剰救済)、あるいは救済がかえって企業の効率改善のインセンティブを低下させたのではないか(モラル・ハザードの誘発)を定量的にテストすることである。この検討は、基本的なデータベースの作成と分析を終え、再計算を終えた上で、近い機会に成果を発表する予定である。第2の課題は、1980年以降の金融自由化の下で、以上の特徴を持つガバナンスが企業の負債選択にいかなる影響を与えたかを検討することであった。この点については、本学の蟻川靖浩氏(教育学部助手)と共同して1980年代後半、1990年代前半について独自のデータベースを作成して分析を進め、すでにその成果は別稿の通り公刊されている。主要な結論は、この時期の企業の負債選択は、1)期待収益にしたがって負債選択を進めたという意味で合理的であり、その傾向は90年代に入って強まったこと、2)90年代に入ると負債選択に対するリスクの重要性が将来収益に比べて相対的に上昇したこと、3)80年代に見られた負債選択に対する期待収益の効果をMB関係が増幅する関係が消失したこと、4)上記3)の事実は、80年代に見られた、企業経営者のもつモニター回避(entrenchment)のインセンティブの負債決定における重要性が低下し、同時に銀行の顧客プールの劣化が緩和されたことを意味すること、の4点であった。