表題番号:1998A-087 日付:2002/02/25
研究課題林業特化山村における新しい発展方向の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 宮口 とし廸
研究成果概要
 奈良県吉野郡川上村は、わが国で最も古くから大規模な育林事業が始まった場所の一つで、現在でも植林後200年を超える育成林が残り、再生産されている。しかしその林野は早くから村外へ流出し、外部の山林地主(山主)が村内の人(山守)に人工林の育成・管理を委託し、山守が労働者を組織して山主に利潤をもたらすという独特の林業が展開してきた。そして、現在の川上村は奥地山村の例にもれず過疎化が進行し、奥地の林業への若い世代の参入も次第にむずかしい状況になってきている。
 本研究は、山林の所有者の多くが村外にいる状況の中で、林業において必ずしもイニシアチブを取りにくい行政当局が、それとは別にどんな発展の構図を描いているかを検証し、山村問題を考える指針の一つとしようというものである。
 川上村は全国に存在する同名の町村と連携し、全国川上町村協議会を発足させた。これは一時流行した同名の自治体の交流事業であるが、その交流の中から、「川上」という河川の最上流に位置する地名の意味を積極的に考え、環境問題が普遍化しつつある現代社会に、<水源地の村>として、環境問題への問いかけをしつつ村づくりをしていく姿勢を共有する動きが生まれた。有識者を交えた担当者らの議論は、年に一回開催される川上町村サミットの場を、川上宣言の発表の場にするところまで進んだ。川上宣言は、河川の最上流に位置する町村が手を携えて、生命を育む自然の偉大さを語り、下流にきれいな水を流しつつ環境の意味を啓蒙しようというものである。
 ちょうど川上村では建設省が治水を主目的とした多目的ダムを建設中であり、このダム建設の経緯の中でも、従来とは異なった対応が見られる。それは、水源地の村として、ダム建設は容認するものの、ダム建設が水源地の生活を破壊するものではなく、それをいかに発展の契機としていくかという発想である。現地調査に基づいてこれらの対応を整理しつつあり、後日あらためて発表したい。