表題番号:1998A-075 日付:2003/04/03
研究課題フジアザミ実生の耐乾性に関する生理生態学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊野 良夫
研究成果概要
 フジアザミの生育地である富士山南東部斜面は火山礫からなり、夏季は高温となり、乾燥する。5月、6月に出現した芽生えは、この乾燥に耐えて根を下層の湿潤層まで伸長させなくてはならない。その間、蒸散量を減らすとともに、低い水ポテンシャルの土壌から吸水する必要がある。本研究では、芽生えの吸水能力について検討した。
 フジアザミ種子を濾紙上で発芽させ、3個体ずつ軽石基質の小さなポットに移植した。薄い濃度の培養液を与え、3~4日間栽培し、根を成長させた。このポットにポリエチレングリコールと水の混合溶液を加えた。ポリエチレングリコールの混合の程度によって、段階的に変わる水ポテンシャル培地を設定した。30%溶液で-4.1Mpaの水ポテンシャルであった。水だけから30%溶液まで5段階の溶液をつくった。1段階15個のポットを設定し、23時間照明、1時間暗期で23℃の部屋においた。比較のために、同じ火山荒原に生育するイタドリを使い、同様な実験を行った。30%濃度では実験2日目に両種ともほとんどが吸水できず死亡した。イタドリでは20%(-1.97Mpa)段階でも2日目にはほとんど枯れたが、フジアザミでは約40%が生存し、4日目でも25%が生存した。5%溶液(-0.32Mpa)ではフジアザミ実生には異常なかったが、イタドリ実生は35%が枯れた。
 フジアザミ実生はイタドリ実生に比較し、低い水ポテンシャルからも吸水可能であることが判明した。降水後、徐々に低下する水ポテンシャルをもつ土壌水から、フジアザミはイタドリよりも長期間吸水が可能である。また、イタドリが4日目で70%が枯れてしまう10%濃度(-0.73Mpa)の水ポテンシャルで、多くのフジアザミ実生は吸水可能であった。両種の水ポテンシャルに対する相違は、イタドリ実生が、主にイタドリパッチの斜面下側の窪地に見られるの対し、フジアザミが乾きやすい平地に多く見られることを説明できるものである。