表題番号:1998A-051 日付:2002/02/25
研究課題中性フランス叙情詩のC写本による読解―フォルケ・デ・マルセイユを中心に―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 瀬戸 直彦
研究成果概要
 1998年度には前年度より研究を進めてきた、12世紀のトルバドゥール、ジャウフレ・リュデルの第4歌の解釈を、M〈SUP〉h2〈/SUP〉というマドリッドの写本をもとに、新たな視点から行ったものを紀要に発表した。Cとeという2伝本を折衷した従来の読みをあらため、後者が、詩節の構成と数から作者のオリジナルに近いであろうこと、そして、この作品が、同時代の《スキャンダル》であったアベラールとエロイーズの恋愛事件に想をえているのではないかという仮説を提示してみたのである。そして、その後の研究成果も踏まえて、e写本を底本にしたテクストを作り、12月にパリ大学(ソルボンヌ)中世研究所50周年記念コロックで、その骨子を発表した。そのさい、ジュネーヴ大学のペルージ教授から、eの読みでは弱い点をいくつか指摘された。長年の懸案であるフォルケ・デ・マルセイユの校訂には、まだなかなか本格的な取り組みができないでいるが、C写本の読みをこうして、すこしづつ外堀から埋めるようなかたちで、浮き彫りにしていければと思っている。
 またロマンス語文献学の研究の上で、イタリア学派と称するべき写本校訂への一傾向(上記のペルージ教授も現在ではその代表者のひとりである)の、これまでに果たしてきた役割をまとめてみた。これは結果的に、トリノ大学のダルコ・スィルヴィオ・アヴァッレによる抒情詩の写本に関する総合的な研究(1961年、第2版1992年)の批判的な紹介ということになった。イタリア学派の特色は、現存する複数の写本の読みを、ラハマン法を用いて系統樹を作って重ね合わせ、祖本にさかのぼるところにある。推論に推論を重ねて「原作」に肉薄するその方法は、第2次大戦前のドイツの文献学の衣鉢を継ぐものだが、テクスト校訂上の一写本優先の方法(1929年以降のベディエの方法を基本とするフランス学派と、それに追随するイギリス・アメリカの研究者たちの方法)の対極をなすものである。