表題番号:1998A-029 日付:2003/02/18
研究課題土地所有権制限における「私法の論理」の意義と限界についての基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助手 秋山 靖浩
研究成果概要
 昨年度の研究から、ドイツ民法典九〇六条の機能、および、同条と都市計画との関係をめぐる議論が、現代的な土地所有権のあり方を探るための手がかりとして有益であるとの結論を得た。そこで、本年度の研究では、とりわけ前者の点について具体的な検討を進めた。
 民法においては、土地所有権間の利益の調整を図るために相隣関係の制度が設けられている。日本法における一般的な説明によれば、相隣関係における土地所有者間の積極的権限と消極的権限を調整し、各土地において適切な利用を確保することが、第一次的な目的とされている。しかし、都市計画の考察の視点をめぐる近時の指摘を踏まえるとき、かかる説明だけでは不十分であり、より土地利用の形成という観点から相隣関係の制度および「相隣関係における調整の論理」を捉え直してみる必要がある。
 この点で、ドイツ民法典九〇六条の議論が参考になる。九〇六条の主たる目的は、日本法における説明と同様、土地所有者間の利益の調整である。しかし、それにとどまらず、九〇六条は「国土整備に対する機能」をも果たしていると理解されている。かかる機能は以下の三点から分析されうる。第一に、九〇六条の立法過程を分析してみると、この段階で既に立法者はこの機能を意識していたことが判明する。第二に、九〇六条の個別の要件・効果を分析すると、その基本的な思想(特に「場所的慣行性」要件)や仕組み(防止措置義務・補償義務)の中に、国土整備の特徴や国土整備への刺激が見られる。第三に、九〇六条が適応力を有することから、その柔軟な解釈を通じて、九〇六条はますます国土整備的・環境保護的に機能している。特に、連邦イミッシオーン防止法の価値判断を九〇六条に採り入れようとする動きが重要である。
 このように、九〇六条による規律は、土地所有権間の調整にとどまらず、国土整備・国土形成をも視野に入れている。しかし、多数の公法規定が出現していることからも分かるように、九〇六条のこの機能が万能であると考えられているわけではなく、当然ながら限界が認識されている。したがって、九〇六条と公法規定(特に建設計画法)との間でどこに限界が引かれるか、両者の関係がどのように理解されるべきが、次に問われることになる。そこで、来年度の研究は、「土地所有権制限における「私法の論理」の意義と限界についての基礎的研究(2)」として、残された問題点についての検討を行うこととしたい。
 なお、本年度の研究成果は、「相隣関係における調整の論理と都市計画との関係――ドイツ相隣法の考察」(一)早稲田法学74巻4号(1999年)において公表された。