表題番号:1998A-024 日付:2002/02/25
研究課題20世紀アヴァンギャルド芸術の方向性の研究(ダダから荒川修作へ)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 塚原 史
研究成果概要
 本研究は、私がこれまで数年にわたって継続してきた今世紀アヴァンギャルド芸術運動の展開に関する研究の延長上に位置するものである。具体的には未来派、ダダ、シュルレアリスム等1910年代から30年代にかけて出現した運動体がめざした数々の目標(「宇宙の再構築としての芸術」〔未来派〕、「何モ意味シナイ詩的言語」〔ダダ〕、「世界の変革と生の変革の一体化」〔シュルレアリスム〕が、アウシュヴィッツと広島に象徴される悲劇的事態の後で、いかなる変容を見せるにいたったかを現在形で探求することが主要なテーマとなった。そのために選んだのが荒川修作による最近の実験的作品であるが、その理由は荒川が彼の著作『建築-宿命反転の場』(1995年)の副題を「アウシュヴィッツと広島以降の建築的実験」としているように、彼の問題意識にはアヴァンギャルドの限界を超えて現代芸術=文化の新たな方向を模索する意思がひそんでいると考えられるからだ。
 研究は「心・偏在の場/奈義の竜安寺」(1994年、岡山県奈義町)から「養老天命反転地」(1995年、岐阜県養老町)をへて「センソリウム・シティ(実験的住宅都市)」(東京湾岸に現在構想中、そのプランは1997年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で展示)にいたる荒川の仕事の現地調査および荒川本人とのインタビューを中心になされた(国内・海外出張をふくむ)。それらによって明らかになったことは、荒川の実験が西欧アヴァンギャルドの経験を批判的に継承しつつ、彼らがついになし得なかった「新しい共同性」の社会的規模での実現への手がかりを提供しているということである。この実験を通じて、主体=精神が客体=肉体を支配するという近代型の図式を超えることが可能になれば、アヴァンギャルドからボストダンへといたる思想と芸術の悪循環が断ち切られ、21世紀の文化は未知の段階へと到達するであろう。そのことをいくつかの具体的作品や発言によって確認できたのは、本研究の大きな成果であったと考えている。