表題番号:1998A-019 日付:2002/02/25
研究課題EU条約を改正するアムステルダム条約の検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 須網 隆夫
研究成果概要
 アムステルダム条約は本年(1999年)5月に発効した。これにより従来のマーストリヒト条約による体制は修正され、3月に開始したコソボへの空爆への対応も、この改正された共通外交安全性策によって行われている。
 本研究では、まずEUの三本柱の列柱構造自体が、アムステルダム条約によりどのように変容するのかを検討した。第二の柱における一方での特定多数決の拡大と、他方での建設的棄権制・重要な国家利益の主張による特定多数決による採択の阻止の導入、第三の柱における欧州裁判所の管轄権の拡大により、列柱構造はより複雑化した。この結果、従来は、政府間協力として並列的に論じられてきた第二・第三の柱について、さらに両者の法的性格の差違を議論する必要が生じている。
 本研究では、次いで第一の柱における機構改革の内容を検討した。ECにおいては、今回の条約改正以前より、意思決定過程の民主的正統性が大きな論点であった。具体的には、理事会が特定多数決による決定を行う場合には、直接的な民主的正統性を持った欧州議会・加盟国議会による統制が制約されることが、「民主主義の赤字」であると意識されてきた。今回の改正では、議会が拒否権を行使できる共同決定手続きの適用範囲が拡大するとともに、その内容が簡易化され、欧州議会の権限が拡大した。この他、EC各機関の情報公開など透明性も増加した。また、加盟国議会の役割への配慮も見られる。その意味で、「赤字」の程度は減少した。しかし、理事会と議会に決定権限が分有する構造自体に変化はなく、そのような権限の分有をどう正当化するか、換言すれば、分有を前提として、議会の権限強化によって、最終的に「赤字」が解消するかどうかが、理論的課題として残る。今回の検討により明らかになった問題点は、さらに今後の研究の中で追究して行きたい。