表題番号:1998A-016 日付:2003/05/23
研究課題国際取引と知的財産権―知的財産権の属地的保護と国際取引の自由化の相剋―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 木棚 照一
研究成果概要
 表記問題がもっとも典型的な形で現れる特許製品の並行輸入の問題を考察した。とりわけ、特許製品の並行輸入を目次的許諾論によって許容した最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決を中心的な素材としながら、この判決が取り扱うBBS事件に至るまでの判例とBBS事件の背景を探り、BBS事件の第一・二審判決の内容とそれに対する学説および実務界における見解を検討した。ついで、この最高裁判決の理論構成と並行輸入許容の要件に関して検討したうえで、この判旨から必ずしも明らかにはなっていない要件があることを指摘し、それをめぐる問題点を検討した。結論的に、特許権による市場の分断的支配を抑制し、特許製品の並行輸入の要件を明確化するためには、むしろ、国際消尽論による方が有益であるとする立場から、国際的消尽論の基礎条件となる国際市場は最高裁判決でも認めるように既に存在しているが、わが国の特許法の解釈として国際消尽論を採る以上、特許製品の最初の拡布国でわが国の特許権と並行する特許権が存在し、且つ、その特許保護がわが国に比べて本質的に少ない程度の保護されていることが必要になることを明らかにした。
 これとは別に「知的所有権に関するTRIPS 協定の成立過程と内容特徴」も研究し、原稿を完成させたが、記念論文集用のものなので、他の執筆者との関係で未だ刊行の予定が明確となっていない。ここでは、1995年1月1日より発効した WTO 設立協定の付属協定であるTRIPS協定の成立過程を歴史的に考察し、この協定の内容的特徴を検討し、知的所有権の属地性がどの程度克服され、どの程度問題を残しているかを明らかにした。さらに、財団法人知的財産研究所10周年記念論文集に「TRIPS協定による知的財産権の保護の意義と問題点―TRIPS協定における属地主義の原則をめぐって―」を寄稿した。この論文は、TRIPS協定の下で知的財産権の属地主義の原則をGATT/WTOの目標からみて制限的に解すべきことを国際消尽や強制実施などの例を挙げて主張した。