表題番号:1998A-014 日付:2002/02/25
研究課題ドイツ親権法の研究―親責任と子の福祉―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 岩志 和一郎
研究成果概要
 本年度は、ドイツ新親子法の全体像の検討を行い、その結果、今後研究を継続する上で必要ないくつかの視覚を設定することができた。
 第一の、最も中心的な視覚は、嫡出子と非嫡出子という区別概念の廃止である。この長年親子法の基軸となってきた概念を廃止することで両者の平等化が達成されたが、同時に親子法の構造自体が変化した。真に嫡出子と非嫡出子の平等が図られるということはどういうことか、そのためにはどのような範囲で、またどのような形での構造の変革が伴うのか、細部まで慎重に見極める必要がある。
 子に対する父母の共同責任を強調し、離婚後あるいは未婚の父母の間にも共同監護を認め、また子との交流を促進していることも重要な視角である。婚姻の破綻や婚姻の不存在を直ちに親子の結合の否定に結びつけるべきではないという考え方の定着を示すものであり、従来の親子法の中における婚姻の位置づけを見直させる。
 子の養育のあり方に関する親の自己決定と子の利益の調整という視角も重要な切り口となる。離婚後の父母の共同監護は自動的に継続し、単独監護への移行も父母が合意している限り、家裁によってそれが尊重される。婚姻関係にない男女も合意によって共同監護となることができ、裁判所の決定は必要とされない。他方、父母が合意できない場合については裁判によるものとし、また親の監護や交流権の行使が子の利益と抵触する可能性のある場面では裁判所を介入させている。裁判所の判断基準は「子の福祉」であり、その介入の要件は綿密に規定されている。このような綿密な基準設定は、父母の法的地位に対する不必要な干渉の防止と、子の利益の確保のバランスを慎重にはかった結果である。
 さらに、子と父母の交流が子の権利として位置づけられたことも注目すべき視角となる。直接請求することも、執行することもできない「権利」を、明示的に規定することにどのような意味があるのか。解釈の基準としての面からも、実効性の面からも注目していく必要がある。