表題番号:1998A-008 日付:2002/02/25
研究課題廃棄物循環再利用多部門線形モデルにおける資源散逸条件の理論的実証的分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 中村 愼一郎
研究成果概要
 理論的分析:①再資源化を含む生産モデルにおいて重要な資源散逸条件(鷲田豊明・Georgescu-Roegen)を線形多部門モデルについて導出した。②複数の廃棄物及び廃棄物処理過程と再資源化過程を整合的に記述する産業連関形式の廃棄物循環勘定体系を開発した。③この勘定体系に依拠した分析用線形モデルを導出した。①では鷲田豊明の結果を拡張し、②ではオランダ統計局が進めている NAMEA の簡略形と見なされる勘定体系を得た、③では、従来、不等式を含む線形計画法として解かざるを得なかった問題を、廃棄物適正処理情報から得られる変換係数を用いて等式体系として解けることを示した。
 実証的分析:①全国一の一般廃棄物の再資源化率を誇る北海道のF市について聞き取り・視察を行い、同市についての廃棄物循環勘定を作成し、拡張産業連関モデルを推定し、堆肥化とRDF化を中心とする同市の廃棄物処理政策を埋立処分場への負荷と化石燃料消費の観点から評価した。
F市廃棄物政策の際だった特徴は可燃ごみの再資源化にあるので、分析対象を可燃ごみに限定した。
1996年の排出割合をコントロールとし、排出割合について以下の三シナリオを想定した
1 [シナリオ 1: 再資源化無し] 全ての可燃ごみは焼却される
2 [シナリオ 2: RDFのみ] RDFの割合はコントロールと同じだが、それ以外は全て焼却される
3 [シナリオ 3: 有機肥料のみ]有機肥料のの割合はコントロールと同じだが、それ以外は全て焼却される
再資源化を全く行わず[シナリオ1] "全量単純焼却 → 焼却灰埋立" とすると、単純焼却量は 132% 増加し埋立処分量も26%増加する。
生ゴミを単純焼却しRDFのみ生産する[シナリオ2]場合、単純焼却量は89%増加し埋立は28%増加する。
これに対してRDFごみを単純焼却し有機肥料のみ生産する[シナリオ3]場合には、焼却量が43%増加するのに対して、埋立量は微減する(RDF を生産しない方が埋立が微減するのは、RDF生産による他部門への生産誘発を通じる埋立誘発が微減するためと考えられるが、僅かな値なので無視する)。
すなわち、再資源化を一切行わないと焼却量は約2.3倍に増えるが、その約7割は生ごみの再資源化を行わないために生じる。生ごみからの有機肥料生産は、埋立処分の減量対策として極めて有効に機能しているのである。
 次に、RDFについてのエネルギー的な有効性を検討する。
エネルギー投入の尺度として、各シナリオの下で誘発される石油・石炭製品と電力の生産額合計を用いた。
F市の焼却炉では助燃が行われていないので、投入ベクトルにおけるエネルギー投入が焼却量に比例するとは考えにくい。従って、エネルギー必要量から焼却量の増加に比例する部分を除いた方が適当であると考えられるので、表の数値は焼却に関する部分を除いている。
エネルギー投入は再資源化を全く行わない[シナリオ1]と0.006%と僅かではあるが減少する。
しかし、RDFに限定すると[シナリオ2]エネルギー投入は0.07%減少する事から、RDF事業が少なくともエネルギー的に有効であることがわかる。この意味で、F市のRDF化事業は廃棄物処理事業ではなくて生産事業である。
この結果は、工学的な見地から廃棄物処理関連部門に限定してRDFのエネルギー分析を行った金贏載、松藤敏彦、田中信寿(1995)の結果と整合的である。