表題番号:1998A-003 日付:2002/02/25
研究課題行政訴訟の日米比較
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政冶経済学部 教授 大濱 啓吉
研究成果概要
 アメリカでは1996年に連邦行政手続法(Administrative Procedure Act)が成立した(本研究では連邦を対象とした)。APAは、①審決手続、②規則制定手続、③司法審査の三つを大きな柱としているのに対して、1992年に成立したわが国の行政手続法は行政処分と行政指導だけを規律の対象とする。アメリカと較べると、②(日本流に言えば)行政立法法手続と③司法審査の規定がすっぽり抜け落ちている。本研究は、このうち、③に焦点をあてるものである。
 わが国の行政手続法の中に何故司法審査の規定がないかといえば、それは1962年に行政事件訴訟法が制定されているからである。行訴法は、日本国憲法制定とともに行政裁判所が廃止され、司法国家体制に移行したのに合わせて、戦後の訴訟の混乱を整理する形で設けられたものである。しかし実質的には戦前型の行政制度を払拭しきれずに、司法国家に接ぎ木した形になった。すなわち現行制度の中心である取消訴訟は公定力概念を基礎に作られている。通俗は取消訴訟の訴訟物は処分の違法性であり、取消訴訟は公定力を叩く訴訟だとする。公定力概念には、行政の公益独占の思想がある。ここにはプロイセン・ドイツ法を継受した実体法中心の戦前の立憲君主制の残滓がある。他方、アメリカには公定力概念はなく、むしろデュー・プロセスを指導理念として行政手続が行われている。デュー・プロセスの思想には、行政は公益を独占しないという前提があり、手続を遵守してはじめて授権された権限を適法に執行したことになるとされる。本研究はAPA706条の判例分析を素材にするものであるが、行政手続法の制定が、理論的にはわが国の行訴法の根幹を揺るがす問題を孕むことを指摘し、行訴法改正論まで視野にいれた制度比較を行うものである。