表題番号:1997B-013 日付:2002/02/25
研究課題宗家文書と対馬国の文化史に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 竹本 幹夫
(連携研究者) 文学部 教授 紙屋 敦之
(連携研究者) 文学部 助教授 和田 修
研究成果概要
 本研究においては、対馬民俗資料館寄託の宗家文書の調査と、対馬全域における民俗資料の調査・収集とを目的としたが、実際の調査の過程では、民俗資料の記録収録に多くの力点を置くことになった。また研究の当初には対馬の政治史・外交史にも力点を置く予定であったが、結果的には芸能史中心の成果報告とならざるを得なかったことをお断りしたい。
 風流踊りは、上県郡・下県郡のほぼ全域についての調査を行ったが、これにあわせて対馬特有の巫覡である法者(ほさ)・命婦(みょうぶ)関係の資料に関しても、演劇博物館学芸員であった渡辺伸夫同館主任の協力を仰ぎ、いくつかの重要資料を調査・収集することができた。風流踊りに関しては、厳原を中心とする南部一帯の踊りと、対馬北部に散在するいくつかの踊りについて調査した。これらの調査を通じて、対馬全域における風流踊りならびに法者家・命婦家の現状での分布がほぼ明らかになった。また厳原地域の踊りを本学に招聘して徹底的に調査する機会を得たために、舞踊の技法研究上きわめて意義のある資料を収集できたことも特筆に値する。
 対馬の藩政資料には、能楽に関する記事が少なくない。厖大な資料群のすべてを網羅するつもりで始めた調査であったが、そのもくろみはあまりに無謀で、実際には江戸前期の分の収集のみで、研究をまとめざるを得なかった。対馬藩には朝鮮半島との交流の歴史があり、釜山にはいわゆる倭館を構えて交易・外交交渉等を行っていたのであるが、そこでも能の舞われた記事が最近韓国の研究者により紹介されている。そうした外部資料との照合作業を通じて、同藩の能楽文化の歴史的な広がりをさらに明らかにしたい。
 今回の共同研究を通じて、一見無縁な風流踊りと能とが、実は対馬藩の年中行事を通じて密接に結びついていたことが証明された。厖大な資料の分析を踏まえた、対馬藩芸能史の総合的研究を可能にするための基礎研究を行い得たことが、今回の最大の成果である。