表題番号:1997B-009 日付:2002/02/25
研究課題日本窯業技術の歴史的展開に関する実験的研究-還元焔冷却法から酸化焔冷却法へ-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 佐々木 幹雄
(連携研究者) 人間科学部 教授 谷川 章雄
(連携研究者) 人間科学部 助手 余語 琢磨
研究成果概要
 焼き物の色調はそれを使う人々の意識(好みなどを含む)を反映し、時代とともに変化する。本研究は古墳時代から古代にかけて展開した灰色を基調とする還元焔土器(須恵器など)が中世になると大方茶色を基調とする酸化焔陶器(常滑など)へと変化して行った、その理由を焼き物の焼成技術と絡め、実験考古学的方法で検討したものである。
 窖窯を使い焼き物の焼成実験を繰り返す過程で、焼成と色調には次のような関係のある事が確認された。
 ①土器焼成とは火入れから期待した最高温度に達するまでの昇温段階だけでなくその後温度が下がる降温(冷却)段階までをも含めて考える必要がある。
 ②昇温、降温両段階ともに酸化状態、還元状態がある。
 ③焼き物の表面の色調は降温段階において窯内が酸化か還元かによって決まる。
 ④無釉の土・陶器の場合、その色調は胎土に含まれる鉄分の酸化・還元反応による。
 かかる原則を前提とし、さらに種々実験を行なった結果次の事が確認された。
 ⑤還元焔の場合、灰色を基調としつつも灰白、灰、灰黒、黒色など、酸化焔の場合、茶色を基調にしつつも淡茶、茶、赤茶、茶褐色など色調にバラエテイがあるが、それは胎土に含まれる鉄分の多寡、窯内の還元、酸化状態の強弱、さらに焼成温度により決定される。
 この他、色調の決定に関わる要因としては、
 ⑥1100℃程の高温では圧力が高まり窯内は還元雰囲気となる。
 ⑦冷却時間が長い程鉄の結晶が促進され、還元冷却では黒味を帯びる。
 ⑧燃料の薪にも鉄分が含まれ、特に赤松の場合は多く約3.4%程含まれ、色調に大きな影響を与える。
 実験により焼成と色調の関係は以上のように確認されたが、問題は実際の焼成技術である。そこで韓国での窯焚き実験を経て、特に還元効果を明らかに出すためには冷却段階における窯の密閉性を高めかつ維持する必要があり、その操作には酸化冷却よりもかなりの神経を使うことが理解された。還元焔焼成技術の方が酸化焔技術よりも難しいのである。
 したがって、古代の還元焔土器から中世の酸化焔陶器への転換の理由を技術の進歩という概念で理解することはできない。むしろ社会の要求、焼き物の色調に対する人々の好みの変化に対応したものと考えざるを得ない。
 なお、本件究の成果は99年度日本考古学協会春の大会にて発表することが決まっており、報告書は2000年度の比較的早い時期に纏める計画で準備している。