表題番号:1997B-004 日付:2002/02/25
研究課題木造船修復技法の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工 教授 中川武
(連携研究者) 理工総研 客員講師(専任扱い) 黒河内宏昌
(連携研究者) 理工 助手 中沢信一郎
研究成果概要
今日我々は、日常生活における建造物の保存環境を生み出す必要性に迫られている。文化財建造物の保存事業はこうした環境づくりに資する意味を持つが、文化財建造物とは建築のみならず、歴史的な船舶など広範な対象をも含む。北ヨーロッパ諸国では、こうした船舶の保存活動が人々の歴史意識、環境意識の育成に大きく貢献している。本研究の目的は、わが国で将来的に行われる船舶保存事業の基礎とすべく、北ヨーロッパの木造船遺構を視察し、復原の技法や社会還元の仕組みを調査することである。調査箇所はヴァーサ博物館(スウェーデン・ストックホルム)、ヴァイキング船博物館(ノルウェー・オスロ)、デンマーク国立博物館(コペンハーゲン)、ヴァイキング船博物館(デンマーク・ロスキレ)、デンマーク国立博物館海洋考古学研究所(同)、デンマーク国立博物館海洋考古学センター(同)、古代船舶博物館(ドイツ・マインツ)、バタフィア造船所(オランダ・レリスタッド)、オランダ船舶水中考古学研究所(同)である。
 復原の技法は、対象とする船舶の残存状況によって異なる。船の部材が大部分発見された場合、復原に要求されるのは主に着実さのみであるが、部材が揃っていても船が解体されている場合や、喪失した部材が多い場合は、復原はきわめて困難となる。とくに船体(湾曲した船の下部)形状の復原には、特殊な技法が必要とされる。我々は現地の研究所において、この船体形状の復原技法の概要を取材した。復原技法を決定する要因はあくまでも学術的なものだが、事業全体を方向付けるのは、社会還元の方法である。遺構の魅力を充分に見学者に伝えるための博物館の設計も、事業の中では重要なウェイトを占める。オリジナルによる復原が不可能な場合は多くレプリカが作られるが、レプリカは絶好の社会還元の手段ともなる。デンマークのヴァイキング船博物館では、レプリカは航海術の実験船として用いられ、その成果は漁船やヨットを持つ人々の還元される。バタフィア造船所は善意の寄付金をもとにした失業者のための職業訓練所であり、訓練の成果としてのレプリカが、歴史意識を育成する素材として社会に還元されるのである。