表題番号:1997B-002 日付:2002/02/25
研究課題近代中国都市芸能に関する基礎研究―清末・民国期北京における京劇と皮影戯をめぐって
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 岡崎 由美
(連携研究者) 文学部 教授 古屋 昭弘
(連携研究者) 広島経済大学 専任講師 平林 宣和
研究成果概要
本研究では、従来必ずしも明かでなかった都市における芸能の相互関係、およびそれをとりまく社会環境の解明を目的に、北京の皮影戯と京劇に関する研究を行い、一定の成果を上げることができた。

 皮影戯に関しては、都市芸能の相互関係、農村芸能との交流を構造的に把握することを目的に、インタビューと文献資料収集とを行った。まず、民国期北京の皮影戯に関するインタビューと、それをとりまく社会的環境を記述した文献資料によって、皮影戯の社会的機能、民俗学的機能が明らかになった。また、華北・東北各地の影巻(皮影戯台本)を数百部収集し、解題目録の作成と電子画像データ化を進めた。これら影巻の抄写時期は民国期から解放後に亙っており、他劇種の戯曲との比較分析を通じて、華北地域の都市・農村芸能の交流のあり方を明らかにした。また影巻は俗字を多用した鈔本であるが、電子データ化作業によって、文字学的・音韻学的分析をするための基盤を整えた。また、調査課程を通じて、演劇博物館に実演資料として貴重な影人(影絵人形)数百点を収蔵する運びとなった。

 京劇に関しては、都市部における芸能のありようを、特に「近代」という視点から分析するために今回研究対象とした京劇俳優の養成機関、中華戯曲専科学校をめぐって、当初の計画通り、文献資料の収集とインフォーマントへのインタビューとを並行して行い、いずれも一定量の情報が得られている。特に文献に関しては、京劇を近代の古典芸術として位置づけようとする知識人と、あくまで娯楽として享受しようとする都市大衆層双方の視点を反映する資料が集まり、民国期の北京における大衆文化としての芸能の様態、およびその近代化の過程が明らかとなっている。

 さらに、資料収集と並行して行った国内所蔵の民国期演劇雑誌データベース作成作業については、東洋文庫、国立国会図書館、アジア経済研究所などの雑誌目録をもとに、編纂の作業を進めた。加えて、本年度末に九州大学の中国演劇資料アーカイブである濱文庫の訪問調査を行い、資料の収集と目録の内容充実を図っている。