表題番号:1997A-601 日付:2003/04/02
研究課題ボンポテンシャルを用いた一様核物質のエネルギーの変分計算
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学総合研究センター 専任講師 鷹野 正利
研究成果概要
 一様等方な核物質中で、核子が運動量依存性を持つ核力ポテンシャルで相互作用を及ぼしている場合の、一核子あたりのエネルギーを、近似的エネルギー表式を用いる新変分法によって求めた。
 近似的エネルギー表式を用いた新変分法は、一様核物質のように、強い短距離値からで相互作用しているフェルミ粒子系に対して有効な多体計算法で、特に相互作用が中心力の場合(液体ヘリウム3など)で成功を収めている。この処方は、核力のように状態依存性が強く非中心力も無視できない、現実的核物質への適用へと拡張されているが、現段階では、拡張された新変分法の与える一核子あたりのエネルギーは、実験値より相当低くなっている。その原因の一つに、用いた現実的核力モデルの斥力芯が弱い事が考えられる。
 そこで本研究では、現実的核力モデルの一つであるボンポテンシャルを用いた。ここで注目したのは、ボンポテンシャルが、これまで用いた核力モデルと異なり、運動量の2次の部分の項を含んでいることである。この項は一様核物質中において、核力の斥力芯の部分での核子のみかけの質量を小さくする働きをし、その結果effectiveに核力の斥力芯の効果を強め、全体のエネルギーを高くする事が期待される。本研究では、最も簡単な場合として、一様等方な中性子物質に対して、ボンポテンシャルの中心力部分のみを用いた変分計算と、中心力部分+運動量の2次の部分を用いた変分計算を行い、得られた一核子当たりのエネルギーを比較した。そして実際に斥力芯の効果が強まっていること、またそれに伴い一核子あたりのエネルギーが高くなっていることを確認した。
 ところが、理論を対称核物質に拡張した場合、期待した斥力芯の効果が見られない事、またその原因がポテンシャル自身にある事が判明した。そこでボンポテンシャルと同様に運動量の2次の効果を持ち、さらに対称核物質においても斥力芯の効果が保証されている、パリポテンシャルを用いて同様の変分計算を行った。その結果、中性子物質、対称核物質共に、従来よりreasonableなエネルギー(状態方程式)が得られ、またそれを用いての中性子星構造計算などにおいても、観測と矛盾の無い結果が得られた。
 今後の課題は、より現実的な核物質を対象として計算を行い、最終的に核力の運動量の2次の部分がどの程度有効に働くかを調べることである。またボンポテンシャル以外に、変分計算に適した、運動量の2次の部分を持つ核力ポテンシャルを用いた場合についても研究を行う。