表題番号:1997A-564 日付:2002/02/25
研究課題半導体光スピニクスの超高速応答特性の制御に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 竹内 淳
研究成果概要
これまでのエレクトロニクスにおいて、スピンという量子状態はデバイスの機能としては利用されてこなかった。しかし、近年スピンを利用することによって、従来にない新しいデバイス機能が実現できるのではないかという期待が高まっている。本研究では、InGaAs量子井戸でのスピン緩和過程の測定とその機構の解明に取り組み、量子井戸の設計パラメータを変えることによってどの程度スピンの緩和過程を制御できるのかを調べた。その結果、InGaAs量子井戸での電子のスピン緩和時間は量子化エネルギーに反比例する(マイナス一乗に比例する)ことが明らかになった。GaAs量子井戸では、スピン緩和時間が量子化エネルギーのマイナス二乗に比例し、スピン軌道相互作用に基づくスピン緩和機構(Dyakonov-Perel効果)が支配的であることを既に明らかにしたが、この依存性とは異なる。このことから、InGaAs量子井戸でのスピン緩和の機構としては他の要素を考える必要があることが明らかになった。InGaAs量子井戸のバンドギャップはGaAs量子井戸のバンドギャップの半分程度と小さいが、バンドギャップの縮小によって大きくなる効果として、伝導帯と価電子帯とのバンドミキシングによって生じるスピン緩和の機構(Elliot-Yafet効果)などを今後考慮する必要がある。また、応用面を考えると、InGaAs量子井戸は光通信での中心波長である1.55ミクロンの波長に対応するが、スピン緩和時間は同じ量子化エネルギーのGaAs量子井戸より一桁以上早く、その時定数は5ps程度と極めて高速であることが明らかになった。今後、全光ゲートスイッチなどの超高速デバイスへの応用の可能性も考えられる。
研究成果の発表
1998年1月  応用物理学会欧文誌刊行会 A. Tackeuchi and O. Wada, Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) 98., “Electron Spin Relaxation Dynamics in InGaAs/InP Multiple-quantum Wells”