表題番号:1997A-561 日付:2002/02/25
研究課題有用なグリコシダーゼ阻害物質の合成と開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 竜田 邦明
研究成果概要
近年、グリコシダーゼやグリコシルトランスフェラーゼが生合成や分解を通して糖質の係わる生体機能を支配していることが明らかにされてきた。このことは、これら酵素の阻害剤が生体機能の解明に役立つばかりではなく、これら酵素の異常によって引き起こされる疾病に対する治療薬になる可能性を示唆している。今回、本研究者らは、N - アセチル -β- D - グルコサミニダーゼの強い阻害物質であり、糖尿病薬あるいは抗エイズ薬として期待されているナグスタチンの全合成を初めて完成すると共に工業的合成法を確立した。すなわち、L-リボフラノース誘導体にイミダゾールを反応させた後、分子内求核反応を経て、イミダゾール環の縮環した二環性アザ糖質を合成した。これに、側鎖のアセチル部分を位置選択的に導入して、天然型ナグスタチンを得た。さらに、L-キシロースなどを出発原料にして、ナグスタチンの立体配置および置換基の異なる種々の類縁体を合成し、それらの構造活性ー相関研究を行った。その結果、他のグリコシダーゼ にも特異的に阻害活性を示す化合物が得られることを見いだした。終局的に、それらがそれぞれの基質と拮抗的に作用して酵素阻害活性を示すことを明かにし、理論的にすべてのグリコシダーゼ(糖分解酵素)の阻害物質を合成できることを例証した。
 一方、殺ダニ物質グアラマイシンを、D -グルコサミン、D - グルコースおよび L - グルカールなどを出発原料にして全合成することに初めて成功した。しかし、天然のグアラマイシンは、比較的不安定であり、失活するので、安定で且つ強力な殺ダニ活性をもつ類縁体の合成を試みた。その結果、ピロリジン部分をメチル化することによって目的が達成できることを見いだした。また、その活性発現が糖分解酵素の一種であるマルターゼの阻害活性によることを明かにした。
 したがって、本研究は、有用なグリコシダーゼの阻害物質の合成と開発を基盤として、有用な医薬品の開発を含め、有機工業化学のみならず有機合成化学的にも意義をもつものである。
研究成果の発表
1) 1997年4月:Kuniaki Tatsuta, Manabu Itoh, Ryusuke Hirama, Nobuyuki Ar aki and Masayuki Kitagawa: The first total synthesis of calbistrin A a microbial product possessing multiple bioactivities. Tetrahedron Lett., 38 (4), 583-586 (1997). 
2) 1997年4月:Kuniaki Tatsuta, Shohei Yasuda, Ken-ichi Kurihara, Kiyoshi Tanabe, Rie Shinei and Tsuneo Okonogi: Total synthesis of progesterone receptor ligands, (-)-PF1092A, B and C. Tetrahedron Lett., 38 (8), 1439 - 1442 (1997).  
3) 1997年4月:Kuniaki Tatsuta, Shozo Miura and Hiroki Gunji: The total synthesis of a glycosidase inhibitor, nagstatin. Bull. Chem. Soc. Jpn., 70 (4), 427 - 436 (1997).
4) 1997年11月:Kuniaki Tatsuta: Recent progress in total synthesis and development of natural products using carbohydrates. J. Synth. Org. Chem. Jpn., 55 (11), 970 - 981 (1997).
5) 1997年1月:Kuniaki Tatsuta, Nobuyuki Masuda and Hidemitsu Nishida: The first total synthesis of (±)-terpestacin, HIV syncytium formation inhibitor. Tetrahedron Lett., 39 (1), 83 - 86 (1998). 
6) 1997年2月:Kuniaki Tatsuta, Shohei Yasuda, Nobuyuki Araki, Masaaki Takahashi and Yuko Kamiya: Total synthesis of a glyoxalase I inhibitor and its precursor, (-)-KD16-U1. Tetrahedron Lett., 39 (2), 401 - 402 (1998).